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民進党政権の継続で、中台貿易は衰退か―総統選は民進、国民両党の争いが鮮烈に(上) 日暮高則

民進党政権の継続で、中台貿易は衰退か―総統選は民進、国民両党の争いが鮮烈に(上) 日暮高則

民進党政権の継続で、中台貿易は衰退か―総統選は民進、国民両党の争いが鮮烈に(上)

1月13日に行われた台湾の総統選挙と立法院議員選挙を現地で取材した。中国の習近平国家主席が「中台統一は歴史的な必然」などと声高に叫び、武力を使ってでも在任中に中台統一を実現するという「中国の夢」を語った。今、世界各地で民主主義国と権威主義国が激しく対立する中で、民主主義を標榜する台湾の総統選の結果も米国、日本、東南アジアにとどまらず全世界が注目するところとなった。結果は、総統選では民進党が勝ち、立法議員選は僅差で国民党勝利となった。頼清徳次期総統は、中台関係では現状維持スタンスの蔡英文総統の方針を引き継ぐとしており、当面大きな変化はないと見受けられる。しかし、中国側は頼氏に対して「根っからの独立志向派」として危機感を持っており、今後一段と圧力を加えてくることは間違いない。今後の中台関係の行く末は、台湾を取り巻く情勢はどうなるのか。

<事前集会の雰囲気>
総統選で各政党は投票日の直前に造勢大会という支持者の総決起集会を開く。民進党は2日前の11日夜、総統府、景福門広場で造勢大会を開催、筆者もそれを見たが、15万人を超えると思われる膨大な数の支持者が蝟集した。筆者は2年前の韓国梨泰院の圧死事故を思い出して、密集を切り開いて演台の近くまで行く勇気は持てなかったので、早々に引き上げた。参加者は、個人や数人のグループで来た人が多く、自らが作ったと見られるプラカードや指物などを掲げ、熱気が伝わってくる。ある参加者に聞くと、「今回は蔡英文政権の対中姿勢が継続できるかどうかの歴史的な選挙。大陸に台湾人の意思を示すためにも勝たなくてはならない」と力強く語った。

投票日前日の12日夜は、総統府前広場は民衆党が占拠した。伝聞によれば、若者が多く、10万人には達していない模様とか。一方、民進、国民の両党はこの日、台北市郊外新北市の中心地板橋地区の体育場でそれぞれ集会を開いた。国民党候補の侯友宜氏は現在でも新北市の市長。そのため、盛り上がりがすごいのかと思ったが、それほどでもない。参加者はなぜか高齢者が目立ち、体にゼッケンをつけ、同じ旗を持ち、集団行動していた。会場の周囲にはバスも駐車しており、遠くから動員をかけられた様子がうかがえた。事前に取材したある選挙通からは「参加者には1000―2000台湾元の“遠征費”が出されている」などの冗談話を聞いている。そのため、本当かどうか確認したかったが、集会ではとても聞けなかった。

頼清徳候補はこの日、南部の台南市で集会を開き、夜になって新北市にやってきた。事前の世論調査で、民進党候補への支持が一番多く、彼らの当選は動かないと確信しており、そのためか、頼清徳、蕭美琴正副総統候補には余裕すら感じられた。一方、国民党候補は一時近々の世論調査で民進党候補との差を3ポイントまで詰めていたが、逆転勝利への強い期待感は持てなかったようだ。侯友宜氏は根っからの台湾出身者であり、彼が当選すれば本格的に「中国国民党」から「台湾国民党」に転換する契機にもなり得た。ただ、相棒となった副総統候補の趙少康氏は73歳の高齢で、本人は基隆出身ながら祖籍は大陸河南省出身のがりがりの統一派。1990年代、李登輝総統(当時)が国民党のトップになった時に、同党を離れ「新党」という統一派の政党を作ったほどだ。

蕭美琴女史は父親が台湾人の宣教師、母親が米国人で日本の神戸生まれ。英語が堪能で民進党の外国人向けの広報担当を歴任しており、直前まで蔡政権の駐米代表(大使)を務めた。有能だが、偉ぶるところはない。それに対し、趙氏はどうも古手の狡猾な政治家のイメージを引きずっており、それがマイナス要因にもなった。一方、できたばかりの民衆党で、柯文哲総統候補とペアを組んだのは立法委員の呉欣盈さん。一見知的豊かな女性だが、副総統候補間の討論会で外交方面に明るくないことを露呈してしまった。米側政治家、外交官と丁々発止の交渉をしてきた蕭女史と比べられては立つ瀬がないだろう。

投票は13日午後4時に締め切られ、直ちに開票に入り、早々に当選確定が打たれた。10時04分には全島の集計が終わり、結果が判明した。事前の盛り上がりにもかかわらず、投票率は前回より3.04ポイント下がって71.86%だった。それは野党候補が二つに割れ、民進党の勝利は動かないと読んだ老人、一部の若者などが投票所に行かなかったからとも言われている。それでも、この投票率は日本の衆院選挙などと比べても高率で、改めて中台対立を懸念する台湾人の選挙への関心が強いことを示した。

事前に中国当局はさまざまな圧力を台湾にかけてきた。国務院台湾事務弁公室の報道官は「国民党政権になれば台湾攻撃はない」とほのめかしたほか、習近平主席は新年恒例のテレビ演説で、「祖国の統一は歴史的な必然だ。両岸の同胞は手を携えて心を合わせ、民族復興という偉大な栄光を分かち合わなければならない」と呼び掛けた。これらの言い回しは、明らかに気にいらない当選者であれば軍事力行使も辞さないとの意思を感じさせる。大陸からはまた、年末に何度も気球が中台中間線を超えて飛来したことも台湾人の気分を害した。台湾国防部は「気象観測上のものだ」としてそれほど問題視しない意向を示したが、国際線の航空機の運航に支障を来した。有権者は「中国側の重大な嫌がらせだ」と感じ取ったことであろう。

さらに、馬英九前総統(国民党)がドイツメディアとのインタビューで、「中台関係では、習近平氏を信用しなければならない。習氏が台湾統一を推し進めていると考えていない」と、中国側が主張する一国二制度に同調するような発言をしたことが明らかになった。投票日直前の10日に放映され、その情報が台湾にも伝わった。国民党本部は選挙に影響が出ることを心配し、直ちに侯友宜候補が「馬英九氏とは考え方が違う。台湾の民意は現状維持にある」と関係性を否定した。だが、筆者が事前取材したアナリストらも指摘するように、国民党全体へのダメージになったことは否めない。

<選挙の結果は?>
総統選、立法議員選の結果は多くのメディアが報じているので今さら書くまでもないが、一応触れておきたい。総統選で当選したのは頼清徳、蕭美琴の民進党正副総統候補で、558万6019票(得票率40.05%)を獲得した。2位は国民党の侯友宜、趙少康コンビで467万1021票(同33.49%)。3位は民衆党の柯文哲、呉欣盈コンビで369万0466票(同26.46%)。順位は戦前の大方の予想通りだが、問題は1位、2位との間が91万票という票差。翌日の新聞で中台統一派の「聯合報」などは「頼清徳、小赢(小さな勝利)」との見出しを掲げたが、戦前に筆者が取材したアナリストの多くが「80万票の差があれば大勝利」と言っていたし、三つ巴の戦いで4割の得票率があれば、大差という見方でいいのではないか。

国民党は総統選に比べて立法院議員選挙では頑張った。現有の37議席から一挙に52議席を獲り、第一党に躍り出た。逆に、総議席113議席の過半数62議席を持っていた民進党は51議席に激減、ワンシートの差で第2党に甘んじた。一方、民衆党が得たのは8議席。前回は5議席だったから、躍進と言えば躍進だが、3議席を持っていた若者主体の政党「時代力量」が民衆党に加わっていたことを考慮すると、実質的には増減はない。民進党が減らした分、国民党が議員数を増やしたのであり、総統選で負けたとはいえ、国民党の存在感を改めて示した形となった。総統選と立法議員選で勝った党が正反対になったことについて、テレビの評論などでは、「それなりに大陸への配慮が行き届いた神の采配ではないか」などとの見方をしていた。

ただ、立法院で国民、民進が過半数を獲れないまま拮抗したことで、今後、キャスティングボートは民衆党が握る形になった。という意味では、取りあえず2月初めの立法院長(国会議長)選挙で民衆党は国民、民進のどちらの党に付くのかが注目される。柯文哲氏は早くも4年後の次期総統選への出馬を臭わせており、その意味ではどちらに付けば4年後の選挙に有利になるのかと冷静に判断しているようだ。取材した多くの学者、アナリストは「政権側に付いた方が有利なので、当面は民進党との提携に走る」と予想している。立法院長選びで民衆党は民進党側に付き、その後も両党の提携が続くのであれば、“ねじれ立法院”という言い方は当たらない。だが、民衆党は今後、議会運営では自らの存在感を示すために、是々非々の投票行動を取っていく可能性も否定できない。


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