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米テスラ社は中国市場でしっかり根を張れるのか-リコール、訴訟の敗訴で先行き不安も(下) 日暮高則

米テスラ社は中国市場でしっかり根を張れるのか-リコール、訴訟の敗訴で先行き不安も(下) 日暮高則

米テスラ社は中国市場でしっかり根を張れるのか-リコール、訴訟の敗訴で先行き不安も(下)

<EV車リコールとその影響>

市場監督管理総局は12月3日にも、テスラ社からSUVモデルYの2万1599台のリコール計画を届け出てきたと発表した。「ステアリングナックルの強度が設計要件を満たしていない恐れがあるため」というのが理由。放置すると、運転中に変形や断裂が起こり、極端に力が加わるとサスペンション(緩衝装置)のリンクがステアリングナックルから外れ、運転に影響を及ぼし、事故につながる恐れもあるという。リコール対象車はいずれも、今年2月-10月に中国の工場で生産されたものだ。この情報が出た後の6日、ニューヨーク市場でのテスラ株価は、11月4日の史上最高値(1229米ドル)から20%以上も暴落する事態となった。

株価下落の原因は中国でのリコールや訴訟の敗訴ばかりではないが、中国でのトラブルが大きく影響していることは否めない。特に、中国国内生産車両が問題視されるのはまずい。というのは、今年第1四半期だけでテスラ上海工場での生産台数は45万台で、同社全体生産台数の約43%を占める。中国は最早抜けるに抜けられない重要なマーケットになっている。しかも、中国国内での部品調達率は、2021年初め時点で9割を超えている。テスラ中国の最高主管である朱暁彤(トム・ジュー)氏は「年内には、すべての部品を国内調達とする」と宣言しており、中国の“水”にどっぷりと浸かっているのだ。このサプライチェーンに疑義が生じたら、テスラの中国における長期販売戦略は成り立たなくなる。

中国側から見れば、中国市場にどっぷり浸かった企業は扱いやすい。米紙「ウォールストリート・ジャーナル(WJ)」は12月4日付の紙面で、米国企業が中国市場に参入するケースについて解説し、その中で「進出企業は中国市場で一定のシェアを取るが、最終的には未来の競争相手を引き立てることになるだろう。これは過去にアップルやモトローラで起きたことであり、今はテスラの上に起きている」と指摘した。同紙によれば、中国当局は今、国内のEV企業2社に肩入れし、テスラ社を一歩一歩追い詰め、この業界での独り勝ちを阻止しようとしているというのだ。

WJ紙はさらに具体的に、「中国政府は西側の先進企業が中国の工業生産能力を高めることを熟知しており、中国市場に引き込むことでそれを利用している。テスラ社は、中国で莫大な利益を上げようという壮大な計画を持ってやって来たが、中国側もテスラを上回る大きな野望を持っている。その野望とは、テスラを中国市場で勝たせることでなく、呼び込むことによって中国企業のレベルアップを支援させ、最終的に中国企業がその支援した海外企業に挑戦できるようにすることだ」と書いている。トランプ政権のウィリアム・バー司法長官はかつてミシガン州のジェラルド・フォード大統領博物館で行った対華政策の演説で、「米国のビジネスマンは中国側に機嫌を取れば、短期的には利益を得るかも知れないが、最終的には企業が乗っ取られる」と露骨な警告を発していた。


<外資企業は中国企業発展の礎か>

米華文テレビ局「新唐人電視台」の唐浩解説員も「テスラの中国誘導は美人局(つつもたせ)方式である」とどぎつい表現を使い、中国側がこれぞと思う海外企業を国内に誘い込み利用するというWJと同様の論を展開している。唐氏によれば、中国当局はまず初めに「利誘対手(lure)」ということで、誘導企業に対し中国市場で大々的に利益が上がる可能性を強調する。次に「譲他上瘾(addict)」という段階で、実際に企業に儲けさせ、中国市場の“素晴らしさ”に酔わせてしまう。3番目の段階が「拡大投資(invest)」で、中国国内での事業規模を拡大させ、容易に抜け出せなくさせる。4番目が「屈従投降(surrender)」で、中国当局の軍門に下らせ、言いなりにさせられる。5番目は「摧毁消滅(annihilate)」で、外資系企業が持つ特殊なシステム、技術などを中国側が習得し終わったら、その後に放逐されるという。

北京政府とテスラの交渉過程を知る事情通がWJに語ったところによれば、北京政府はマスク氏に対し、実際に安い土地、低利の借款、税制上の優遇措置を持ち掛け、その代わりに「中国の部品メーカーを育成してほしい。さらには、未熟な国内の電気自動車メーカーを支援してほしい」と求めたという。テスラ社はこの期待に応えて、前述のように中国国内でのフルセット部品供給体制を確立しつつある。また、当局にリコールを報告したように国内生産のEVがまだ十分なものでないことから、同社は今春、地元のメディアに対し、「ゼロから開発する」「多くの中国的な要素を盛り込んだ製品にする」と語っている。これらは、中国の土着化を図るために、技術などをさらけ出すことに他ならない。

「国籍にこだわらないユートピア技術者」(米華文紙)のマスクCEOが引き続きテスラを経営し、中国市場での定着を図るのであれば、中国側もテスラを外資とは見なさず、いわゆる“外資いじめ”の槍玉に挙げることもないのであろう。現実に、長期にわたり中国でビジネスして利益を得ている外資企業は数多くあり、必ずしもWJや唐浩解説員が言うようなパターンばかりとは限らない。だが気になるのは、上海モーターショーで、車の屋根に乗り、テスラの瑕疵を大声で叫んだ女性を当初、近くにいた係員が直ぐに止めなかったこと、その告発動画が直ぐに拡散されたこと。しかもテスラのロゴ入りでブレーキの障害を訴える文字を印字したTシャツを着用していたことにも、何か組織性が感じられる。テスラが今後もしっかりと現地に根を張って事業展開できるのかどうか、中国の今後の外資動向を見る上でも注目される。

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