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第269回 居酒屋での小さな国際社会 伊藤努

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第269回 居酒屋での小さな国際社会

仕事が忙しかった日などに疲れを癒すといった口実をつくっては居酒屋の暖簾をくぐるのが悪い癖となっているが、東京都心の銀座にある会社の近くと近郊にある自宅近くの行きつけの店には中国や東南アジア出身の従業員がアルバイトなどの形で働いている。今では日本全国、どこにでもある光景かもしれない。

このうち、会社近くにある値段が安いことで知られる海産物の居酒屋の店内には、「店のスタッフは外国人ですが、一生懸命サービスいたしますので、よろしくお願いします」との貼り紙まである。印刷物の似顔絵付きの貼り紙があるということは、このチェーン店の居酒屋のほとんどが同じような労働形態で中国人などの若者をスタッフとして雇っているに違いない。

店内にそれほど客がいないときなど、外国人スタッフに出身地を聞いてみると、湖南省、山東省などと中国の地方の省を挙げる若者が多く、日本語を勉強するために留学していると異口同音に話す。

自宅近くの行きつけの店にも、中国人の若者の男女2人とミャンマー(ビルマ)出身の女性が働いており、中年・高齢の客層が多いこの店のちょっとした人気者になっている。常連客が多いせいで、この3人の外国人スタッフに注文を頼むときは、名前を呼んでおり、客との会話、掛け合いも結構多い。

もちろん、客が酔ってからんだりすると、店長と呼ばれる日本人の責任者の出番となるが、そのようなことはごくたまにしか見掛けない。

3人のうち、半分常連になりつつある筆者が親しいのは、都内の私立大学に留学している北京出身のS君で、大学卒業後は日本での就職を希望しているので、時々アドバイスのようなことをして上げている。

中国の人は、すぐに相手の日本人に「先生」と敬称を付けて呼ぶので、S君にはいつも、「君の先生ではないんだけれどな」とからかっているが、彼曰く、アドバイスをしていただけるだけで「立派な先生ですよ」などとこちらをくすぐる。

S君は、生活費を稼ぐために週末は、この居酒屋以外に東京郊外の大学近くのラーメン店でも掛け持ちのアルバイトをしており、勉強との両立は大変のようだ。しかし、彼にはいつも、居酒屋とラーメン店での今のアルバイトをただ単にお金を稼ぐための仕事とは捉えず、日本人の性格や特徴を観察する場として大いに活用してほしいと話している。

また、日本人のビジネスやサービス産業の現場を知ることができるという意味でも、貴重な体験であろう。こうした経験が、今後始まるS君の日本企業への就職活動、ひいては入社後の大きな糧となるよう、ぜひとも活用してほしいものだ。日本のサービス業界で働く多くの外国人の若者にも訴えたいことだ。


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