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第151回 セントルイスと聞き、何を思い浮かべますか 伊藤努

第151回 セントルイスと聞き、何を思い浮かべますか 伊藤努

第151回 セントルイスと聞き、何を思い浮かべますか

先日、米国在住のジャーナリストの先輩が一時帰国した折、都内の居酒屋で旧交を温めた。この先輩が米国の都市セントルイスに住んでいるので、注文を取りに来た30代とみられる男性店長氏に何気なく「セントルイスを知っている?」と聞いてみた。もっと丁寧に「米国のセントルイスって知っている?」と聞けばよかったのだろうが、「えぇ、(解散した)漫才コンビのセントルイスなら知っています」との答えが返ってきて驚いた。

店で食事を終え、レジで支払いを済ませた折、店長氏は「念のため、店のスタッフ全員に同じ質問をぶつけたら、皆、自分と同じ漫才コンビの名前を挙げていましたよ」と教えてくれた。二度びっくりとはこのことだが、辛口の文章で知られる先輩は久しぶりの帰国だったこともあって、「日本の若者の頭の中に世界地図はなく、テレビで知ったタレントの名前がすぐ浮かぶというのは、日ごろ何を考えているか、よく分かるね」と呆気にとられた様子だった。

このエピソードを紹介したのは、居酒屋の店長氏らを貶めるためではない。やりとりを聞いて、昔、バンコク特派員時代にタイ人助手を採用する際に経験したことがなぜかよみがえったからだ。

まだ大学を卒業して数年という若いN嬢は英語が得意で、タイの政治情勢もそれなりに知っていたが、近隣諸国を含む国際情勢となると、からきしダメだった。一例を挙げれば、ベトナム戦争の歴史やタイ、ベトナム両国の外交関係などについて、ほとんど知識を持ち合わせていないのである。特派員の仕事として、タイにとって重要なベトナムやミャンマー(ビルマ)など隣国の二国間関係のカバーもあり、タイ外務省の記者会見に出ることも多い。そのような仕事をするのに、自分の母国と周辺国との関係や歴史的出来事を知らないというのは、ニュースバリュー(価値)を全く判断できないことを意味する。

N嬢には、半年間、東南アジア情勢を徹底的に勉強することを条件に助手に採用したが、その後、ベトナム戦争について質問すると、まずまずの答えが返ってきたところをみると、それなりに猛勉強したのだろう。

わずかな体験だが、日本の20代~30代の若者が「セントルイス、イコール漫才コンビ」と答えたのは、社会的問題に対する関心の低さと関連するのではないか。N嬢がそうだったように、日本の若い世代にも、かつて戦火を交えた日米関係や日中関係、植民地統治を行った韓国や台湾との歴史について、しっかりした知識、理解があるとは思えない。セントルイスをめぐるひょんなやりとりから、若い世代の歴史認識、国際情勢理解を心配するのは飛躍のしすぎだろうか。

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