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ファンダメンタルズは依然厳しいが、華南大湾区経済圏で「光明」探る動きも(下) 日暮高則

ファンダメンタルズは依然厳しいが、華南大湾区経済圏で「光明」探る動きも(下) 日暮高則

ファンダメンタルズは依然厳しいが、華南大湾区経済圏で「光明」探る動きも(下)

<金融界、地方政府の不安>
デフレ不況によって民間企業の資金需要が減り、金融機関も苦しくなった。当連載でも既報の通り、高金利をうたって全国から顧客を集めていた河南、安徽両省の複数の村鎮銀行では、2022年4月に不動産企業の債務不履行などで経営破たんに陥ったことが露見し、大問題になった。村鎮銀行に作られた口座は40万戸で総預金額は400億元と言われる。預金者は富裕層でない一般のサラリー生活者が多かったため、虎の子を預けた彼らは“危険性”を察知し、預金を一刻でも早く回収しようと省都鄭州に押し掛けた。同年7月ごろ、3000人の預金者が鄭州市の村鎮銀行の本店や人民銀行(中央銀行)の鄭州支店前に集結、警備員や警察官と流血事件まで起こした。この取り付け騒ぎで、銀行は一部の低額預金の返金には応じたが、2年以上経った今でも多くは引き出せないままになっている。


それは、村鎮銀行は零細企業であるため、支払いに応じるほどの現金を持っていないことが第一の理由。加えて、党中央の指示もあったのか、預金者が鄭州に集まって集団行動を取るのを警察が実力で阻止したためだ。空港、鉄道の駅頭やバスターミナルなどに警察官が張り込み、監視カメラなどで把握された預金者を銀行に近づけないようにした。ある人には、PCR検査の健康コードに「赤」のマークを出し、意図的に家から外出させないようにする措置を取った。また、公安当局は、鄭州だけでなく、中央政府にも訴え出ないよう預金者に対し直接電話をして説得している。却ってこうした阻止行動で彼らは怒り、報復行動に出た。河南省に工場を持つ台湾系のスマホ組み立て企業「富士康科技集団(フォックスコン)」に対し、「河南省への投資は止めろ」などと攻勢をかけている。そして、鄭州の村鎮銀行問題はまだ解決の糸口すら見いだせない。

中国の公式データによれば、今年第1四半期末、全国の商業銀行不良債権総額は3兆4000億元で、2023年第4四半期に比べて1414億元も増加したという。天津を本拠とする「渤海銀行」は2003年に設立された中小商業銀行だが、8月初め、289億元の不良債権を6割の値段で投げ売りすることを明らかにした。23年に同銀行の貸出額は9320億元であったが、貸出先は中国北部や東北地域の地方政府、企業ばかり。この地域では特に不動産価格の低下が激しく、加えて企業は過剰生産による在庫抱えで赤字のところが多い。同行の税引き前利益は2021年に55億元あったが、23年には17億元に減少した。株価もこの期間で8割も下がったという。

昨年12月時点で、渤海銀行の不良債権額は165億元で、全貸出額の1.8%を占めていた。これにさらに比較的危険度の低い債権まで加えると5%程度になるという。同行の融資先の多くは不動産企業で、悪名高い「恒大地産」のほか「正源地産」「泛海控股」などはすでに破産状態にあり、返済を求めても無理なところばかりだ。渤海銀行は今年7月、新たに不良債権を289億元と算定し、それを売りに出す。一刻も早く現金を手に入れたいのであろう。この債務処理方法は、国有4大銀行の不良債権処理でも行われ、北京にある「信達資産」「東方資産」「中信金融資産」「長城資産」の4つの資産管理企業に買い取られている。だが、これは単に不良債権の付け回しに過ぎず、抜本的な解決にはならない。

経済メディア「財新網」などによれば、国務院はこの9月、中央、地方政府の法定債務が2023年末時点で70兆元を超えたことを明らかにした。全人代の公式サイトで公表された「国務院の2023年度政府債務管理状況報告」では、法定債務が70兆7700億元であり、このうち国債が30兆300億元、地方政府債務が40兆7400億元という。これはGDPの56.1%に当たる規模。同報告はまた、「中国経済の当面最大の問題は需要不足にある」と指摘、「8月の一連のデータを見ると、消費は不振、物価は継続下降でデフレ状態が加速している。この中で唯一素晴らしい点は輸出であるが、8月時点の輸出の良好なデータは一時的だ。第4四半期になれば、諸外国のニーズは落ち、輸出に陰りが見え、中国経済は暗い時期を迎える」と悲観している。

最新の公式データによれば、2024年6月末現在では地方政府債務はさらに膨れ、総計42兆6000億元になったという。今年1-7月期に地方政府向けに認められた債券は4兆2000億元。これで中国の中央、地方政府が出した債券の総計は100兆元に迫ってきた。4兆2000億元のうち、2兆元は償還期限が来て再借入れした分で、新規借り入れの2兆2000億元は主にインフラ建設向けであるという。鉄道にしろ、道路にしろ、地方ではすでに過剰な公共事業投資は必要ないと思えるが、デフレ脱却のために依然政府主導の有効需要に頼らざるを得ないのか。投資会社「ゴールドマンサックス・グループ」のエコノミストによれば、中央、地方政府の債務総計は、系列の「融資平台」などを含めると、2023年8月時点ですでに94兆元に達しているようだという。 

<それでも未来への期待>
経済分野を担当する李強総理は今年1月、「2023年は大規模な景気対策も打ち出すことなく、目標を上回る経済成長を達成した」と胸を張った。この年のGDP成長目標は「5%」で、この目標値は過去最低。それだけに意地でもクリアしたいと思ったのか、結局、5.2%増という結果が示された。今年はどうか。「5%前後」という目標値を掲げたが、第1四半期は5.3%増、第2四半期は4.7%増であったという。上半期の通期では5.0%増で、ほぼ目標通りである。この数字が確かなものであるのなら、消費が減退し、海外からの投資が落ちているというデフレ不況の中でも、中国経済は着実な歩みを続けていると言えるのかも知れない。

李強総理は6月25日、大連で開催された「世界経済フォーラム」で、「中国では新しい産業が興り、世界の科学技術革命や(生態破壊.環境汚染を引き起こさない)グリーンな産業発展の趨勢に順応している。新しい産業は速やかに伸長しており、中国の健全な経済発展を強く支えている。また、中国経済の健全な発展が各国企業のために大きな協力の場を作っている」と豪語した。新産業については、人工知能(AI)、生物技術、グリーン・エネルギーを使っての”技術的な突破“を図るものだと強調した。海外資本、海外企業を呼び込んで、大量に消費生活製品を作るといったこれまでの労働集約型の産業構造、「世界の工場」の概念から離れ、付加価値の高い最先端分野の産業で勝負しようとの意気込みが感じられる。

その傾向は最近、中国商務部(省)が出した通知でも示された。同部は9月7日に文件を公表し、この中で、北京、上海、広東省、海南省にある4つの自由貿易区に人体幹細胞などの医療技術開発を行う外資系企業を招くとともに、国内9都市に限ってこうした技術を持つ外資系病院が独資で開業しても良いとの招商方針を明らかにした。人体幹細胞とは、新しい細胞の生まれ変わりや再生を促進してくれる細胞のことで、いわばクローン動物作成などにもつながる最先端の医療技術である。中国はまた、AI方面でも画期的な成果が見られると自慢する。香港の親中国系雑誌「亜州週刊」によれば、「北京智源人工知能研究院(BAAI)」の林詠華副院長は「中国のAI応用の可能性は大きい。欧米では個人やインターネットの場などに限られているが、中国では実体経済領域の中に大胆に深く入り込んでいる」と自慢げに語った。

9月2-4日、香港フェニックステレビ主催で開かれた「大湾区財経フォーラム2024」で、マカオと広東省珠海市横琴島との経済一体化がうたわれた。「高質量の発展を目指す」としているので、恐らく先端産業を呼び込む狙いがあるのだろう。マカオ大学がすでに横琴島にキャンパスを広げており、今、香港と深圳の関係以上につながりを強めている。横琴島との連携強化でマカオの一国二制度がどうなるかという問題はさておいて、ギャンブル頼りだったマカオに新しい産業を興すという面では大きなプラスになるし、華南大湾区経済圏の発展にも役立つのかも知れない。

 

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