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ファンダメンタルズは依然厳しいが、華南大湾区経済圏で「光明」探る動きも(上) 日暮高則

ファンダメンタルズは依然厳しいが、華南大湾区経済圏で「光明」探る動きも(上) 日暮高則

ファンダメンタルズは依然厳しいが、華南大湾区経済圏で「光明」探る動きも(上)

中国の習近平国家主席は7月の第20期3中全会に出席したあと、8月恒例の北戴河会議ごろから3週間にわたって公の席に姿を現さなかった。そのために世界のメディア、SNSでは失脚説、病気説とさまざまな揣摩臆測が飛び交ったが、同月中旬にベトナムのトー・ラム国家主席を北京に迎えて公式行事に臨み、健在ぶりがアピールされた。ただ、その後の活動も今一つ精彩がなく、その一方で大量に軍人の処分が行われるなど党内で何か”不具合“があったような様相を呈している。注目点は、秋口を迎えて中国経済はどうなったかだ。李強総理は6月に、「中国経済の健全な発展が各国企業に大きな協力の場を作っている」と強気な発言をしているが、8月までの経済ファンダメンタルズを見る限り、好転は見られない。ただそれでも、香港の親中国系誌は華南地域を中心とした経済圏での活況ぶりを喧伝している。中国指導部が主張する「経済の先行きは明るい」という光明論通りに脱デフレの兆候を見出しているのであろうか。

<経済ファンダメンタルズ>
中国国家統計局が9月9日発表した今年8月の全国消費者物価指数(CPI)は前年同月比で0.6%の増、前月(7月)比で0.4%の増で、相変わらずの低水準。都市部では0.6%増、農村部で0.8%増であった。食品価格は2.8%増、非食品価格は0.2%増。食品一般に高めで、品目別では特に生鮮野菜が21.8%、ブタ肉が16.1%の増と、庶民に欠かせない主要食料品が異常な値上がりをしていた。こうした品目の値上がりは毎夏の傾向と言われが、今年は7月と8月を比較しても、物価の急上昇が読み取れる。これは、国内で広く水害などの自然災害に見舞われたためと見られる。一方、8月の生産者物価指数(PPI)は前年同月比1.8%減、前月比で0.7%の減。PPIは20数カ月連続してのマイナスである。

米系メディアの「ラジオ・フリーアジア(RFA)」によれば、台湾雲林科技大学金融学系の鄭政秉教授は「この2つの指数を見ても、物価は明らかに収縮していることが分かる。CPIは普通、小数点以下は出さないが、これを出しているところを見ると、誇大表示性が強い」と指摘。そして、「北京、天津の一線級都市の飲食業はゼロ成長どころかマイナス。政府が出している各分野のCPIはすべてゼロコンマ以下だ。自動車産業は電動(EV)ばかりか、従来型の車種まで含めて生産過剰状態にあり、造っても売れない。すべての産業が衰退状態にあり、中国内部の開明派の人もそれを十分承知している。人民銀行(中央銀行)の易綱元行長などは『今はデフレに対処することが必要』と主張している」と話している。

台湾・東呉大学政治学系の呉建忠副教授も「政府は野菜が前年比で20%上がったなどと強調しているが、これは季節性の天候不順や天災の影響のほか、農民が野菜は儲からないと生産を控えている面があるからだ。野菜価格は需給調整で徐々に下がるであろうが、その他(耐久消費財など)の消費については厳しいものがある。中国のスポークスマンがそれには触れないが、消費減によって全体の需給バランスは大きく崩れている」と指摘した。また、同副教授は「PPIが2%近い減というのは企業が生産意欲をなくしている証左。これはまた、経済の脆弱性が一段と進んだことを意味する。経済の中で比重が高い不動産関連が不況のため、一般庶民は消費を控え、企業も過剰生産を抑制している」と述べた。

8月の中国の工業生産額は前年同月比で4.5%の増。前月7月(5.1%増)から0.6ポイント下がっており、ブルムバーグ通信社が報じた複数の経済アナリストの平均的な予測数字4.7%増を下回っている。8月の小売売上額は同2.1%増で、7月(2.7%増)から0.6ポイント下落した。これもアナリストの平均的な予測数字2.6%増より低くなっている。8月の新築住宅の販売価格は前年同期比で5.3%の減。2015年5月以後、これは最大の下げ幅であり、前月7月の同4.9%減の下げに比べてもさらに悪化している。国家統計局の劉愛華スポークスマンは「外部の環境変化によって(中国への)マイナス影響が増大している。国内の需要が不足しており、経済の再生には依然さまざまな困難と挑戦に直面している」と語った。外部の環境とは何かについて具体的な中身を明らかにしていない。要はデフレの原因が外国にあり、それによって総需要が抑制されていると指摘したいようだ。

国家統計局の発表では、8月の製造業購買担当者景気指数(PMI)は49.1で、前月7月より0.3ポイント低下した。PMIは製造業やサービス業の景気動向を示す数字だが、8月まで4カ月連続で好不調の境目である50を下回った。その一方で、対外貿易は依然順調のもようだ。海関(税関)総署が9月10日発表したデータによれば、8月の輸出入総額は6267億米ドル、前年同期比で5.2%の増。このうち輸出額は3086億5000万ドルで同8.7%の増、輸入額は2176億ドルで同0.5%の増。1-8月の期間で見ると、輸出入総額は4兆ドルを超え、前年同期比3.7%増、輸出は2兆3100億ドルで同4.6%増、輸入は1兆7100億ドルで同2.5%増。厳密な貿易黒字は6084億9000万ドルで同11.2%増に拡大している。

鋼材に限っては、国内の不動産不況の影響で「鉄余り現象」を招いているため、余剰分は海外に大量輸出されている。8月の鋼材輸出量は949万5000トンと前年同月比14.6%の増、14カ月連続の増加となった。輸入国にとっては、単価が安くなっているのは結構なことだが、その分、自国の鋼材生産に影響を与えることに困惑している。中国の全貿易産品の輸出先としては米国、EU、ASEANが多く、この中ではEUへの輸出が8月に前年同月比で13.4%増えている。EU、ASEANへの輸出額は米国を超えているという。これを見ると、欧州各国の対中貿易依存度が依然高い。このため、輸出入バランスを取ろうと、ドイツ、イタリアの首相が物品の売り込みのため、今年相次いで北京詣でした理由が分かる。
 
<経済悪化による諸現象>
ファンダメンタルズを見る限り、デフレ不況が続いていることは否めない。で、市井の生活にも影響が出ている。中国の秋のイベントと言えば中秋節、今年は9月17日で、この日前後は大型連休となった。中秋節と切り離せないのが月餅で、この時期、贈答品として出回る。ところが、今年は月餅の売り上げは芳しくなく、価格も低下傾向にある。中国メディア「時代周報」が焼き物食品工業会のデータとして伝えたところによると、2023年の月餅生産量は32万トン、販売額は220億元であったが、今年の生産量は30万トンで、販売予想額は200億元という。よく売れる価格帯は昨年の80-280元に対し、今年は70-220元と下がっている。深圳のある生産工場の販売担当者は「月餅販売の最盛期は中秋節前の半月で、この期間は夜が明けないうちから工場からの出荷が始まるのだが、今年はそれがない。予約量が明らかに減少しており、生産量は落ちている」と明かす。

深圳にある高級ホテルの飲食部門経理責任者は「今年第2四半期以降、全体的に消費は減退傾向にある。昨年は月餅を1万3000箱売ったが、今年の販売目標は1万箱まで下げた。それでも売り切れるかどうか」と懸念する。さらに、広州の大型月餅生産工場の経理担当者は「予約がないので、工場は3日稼働したあと一日休む態勢にし、出荷も一日置きにしている」と語った。他の5つ星ホテル関係者も「今年は月餅が売れないばかりか、以前に比べて単価の儲けが少ない。以前は一箱当たり500元以上の商品が売れ筋だったが、今年、平均的な商品は150元前後だ」と嘆く。時代周報によれば、月餅が売れないのは世の不景気ばかりでなく、購買者の低糖低脂肪志向もあるという。甘くない新しい味の月餅に人気が集まっているそうだ。

国家統計局のデータによれば、今年7月、学生の潜在求職者を含まない16-24歳の失業率は17.1%で、これは今年になってもっとも高い数字となった。澎湃新聞が国家統計局専門員の分析として報じたところによれば、中国都市部の失業率が6月から7月にかけて上昇しているのは、高等教育機関を卒業した者が新たに求職者の中に加わったためという。海外のメディアはこうした卒業者が定職に就けない状況を「爛尾娃(中途半端な赤子)」現象と呼んでいる。不動産業界では、建設途中で止めて放置された建物を「爛尾楼」と呼ぶが、爛尾娃はこの言葉から引用されたものであろう。統一試験(高考)で良い成績を取り、一流の高等教育機関で学んでも、その後に安定した職に就けず、宅配などのアルバイトに甘んじる人は多い。バラ色の人生設計とは程遠く、これでは本人も親たちもいたたまれない。

かつて活況を呈していて、多くの優秀な大学卒業生を受け入れていた不動産業界は今や、“大不況産業”に陥った。このため、一部の大学では、建築とか土木とかいう理科系学科の学生募集を取り止めている。山東大学では最近、学部段階の土木工程など7つの学科で募集を止めると発表、北京の石油大学も8月に建築など9つの学科を募集要項から削除した。北京航空宇宙大学は今年、土木、水利の修士コースをなくした。広州のある大学の就職担当者は「いかなる産業も発展の周期がある。ここ3年の不動産業界の低迷を受け、建築、土木などの伝統的な学科がそのままであれば、(進学希望者たちに)違和感を持たせてしまうだろう」と述べた。

一方、今回のデフレ不況になる前に起業してある程度の収入を得て、それを蓄積した若者もいる。彼らは国内での資産確保に懸念を感じ、資産を海外に持ち出そうとしている。そればかりか、生活、仕事の場も海外に移してしまおうと考える人もいる。マレーシアのメディアが報じたところでは、同国政府は中国の年の若い“富裕層”を対象に、「セカンドハウス計画(MM2H)」を提示、スマホ動画アプリの「Tiktok」や「抖音」などで通じ、マレーシアでの準定住化を求めている。すでにネットアプリには、MM2Hに関して1000件以上の問い合わせがあったという。中国政府が申請通り移住を認めたら、その数を上回る申し込みになるだろうとメディアは予測している。

マレーシア政府は今年6月、セカンドハウス計画の新規定を設ける一方、住宅購入のために最低30万米ドルの投資が必要だと規定した。これで5年のビザが取得できる。移住希望者は「プラチナ」「ゴールド」「シルバー」の3段階で申請ができ、一番下のシルバーでは15万米ドルの定期預金をマレーシア国内に持つか、最低60万リンギ(約2058万円)でマレーシア国内の企業に投資することが条件となっている。海外移住先については今、中国人が米国を目的地にするのはかなり難しいので、カナダ、オーストラリア、東南アジア、日本、韓国などが主たる候補地になっている。とりわけ、マレーシアは昔から中国人移民が多く、ある程度中国語や中国的な風習が根付いているところであり、移住のハードルは低い。

経済を発展させるためにはベースに自由な言論が必要だが、中国当局は近年、政治を対象にするだけでなく経済分野の論評についても厳しい目を向けている。国内の言論人には、デフレ不況への批判を許さず、もっぱら中国の未来は素晴らしいと喧伝する「光明論」の吹聴だけを求めている。その要請、指示は国内人だけでなく、外国人も対象にし始めたようだ。その結果、英誌「エコノミスト」の北京支社長で、中国分析の専門家であるデービッド.レニー氏は自身のX(旧ツイッター)アカウントに「中国を去る時が来た」と書き、北京からの撤収を明らかにした。彼が同誌最新号のコラム「茶館」の中で、「中国当局は外国人が行う批評をすべて自国に対する攻撃とみなしている」と書いたことが問題になったとされる。

米紙「ニューヨーク・タイムズ」はここ6年で中国駐在記者の数を10人から2人に、「ウォールストリート・ジャーナル」紙も15人から3人に減少。「ワシントン・ポスト」紙は2人いた駐在員を引き揚げ、ゼロにしてしまった。韓国メディアの特派員もこの2年で10人以上が帰り、現在30人程度になっている。今年4月、北京の外国人特派員協会が101人のメディア関係者に聞いたところ、71%がハッカー攻撃を受け、81%が取材過程で当局の干渉や妨害に遭っていることが明らかになった。中国は今年7月に「反スパイ法」を強化し、海外メディア記者の取材に対し厳しい監視の目を向け始め、居づらくなっていることも事実だ。それでも経済が発展し、中国の経済動向に目が離せない状態ならまだ駐在価値はあったのであろう。だが、今はその必要性は小さくなっている。

 

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