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第452回 公用語によるさまざまなトラブル  直井謙二

第452回 公用語によるさまざまなトラブル  直井謙二

第452回 公用語によるさまざまなトラブル

日本やタイは植民地支配を受けなかったとこもあって公用語によるトラブルはない。植民地支配を受けたアジアの国々は多かれ少なかれ自国語と宗主国の言語の間で軋轢があった。今でもインドはヒンディー語やベンガル語とともに英語も公用語だ。ナショナリズムが台頭すると自国語が優勢になるのはどの国も共通だ。80年代半ばのフィリピンでマルコス政権が倒れた政変を取材していた時、奇妙な経験をした。

アメリカなどの植民地支配を受けたフィリピンでは庶民も含め英語を話す人が多い。ただ、英語とタガログ語をミックスして話すから外国人は混乱する。選挙前党首の演説を取材していると出だしはたいてい英語だ。アジア人の話す英語は欧米人よりも聞き取りやすく90%近く理解できる。ところが、メモを取っていると突然理解できなくなる時があり、当初はヒヤリングの問題ととらえ英語力が弱いと反省していた。そのうち聞き取れないところはタガログ語に切り替わっていることに気が付いたのだった。しかも演説の重要なポイントに限ってタガログ語に変わってしまうので苦労したことを思い出した。アキノ政権以降、ナショナリズムが台頭し英語のテレビ放送も減り、英語を話す人口も減っていると聞いた。

90
年代の初めにユネスコのプロジェクトに参加し取材したことがある。オマーンの王様が提供した豪華なクルージング船に乗ってインドのチェンナイ(写真)からフィリピンのマニラまで56日間の船旅だ。途中でプーケットやバリで停泊し遺跡を巡り地元の民族文化などを調査する。

航海や遺跡調査などの報告をユネスコの職員が文書にまとめるが、言語はフランス語だ。
ユネスコの本部がパリにあることも影響しているのだろうが、同行する英語圏の欧米人やアジア人からクレームが出た。文書を読んでも分からないので英語で書いてほしいという要求だった。船の中で激論が始まった。

アジア人は筆者のほかにタイ人や中国人それに韓国人などの研究者や記者が乗船していたが、英語にしてほしいということでアジア人同士がまとまった。旗色が悪くなったフランス人の職員は「フランス語こそ世界で最も多数の人が理解できる公用語のようなものだ」と突っぱねた。すると中国人の学者が立ち上がり、「世界で最も多くの人間が話す言語は13億人以上が理解する中国語だ。中国語に変えるべきだと」と主張した。この発言でアジア連合はもろくも崩れた。結局、フランスの主張が通り報告書はフランス語になったのだった。


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