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東京・中国映画週間とSF 超大作『流転の地球』など最新作いくつか(中) 戸張東夫

東京・中国映画週間とSF 超大作『流転の地球』など最新作いくつか(中) 戸張東夫

<旅客機の機長、消防士を讃える英雄主義映画>

『高度一万メートルの奇跡』は飛行中事故に遭遇した旅客機を無事に帰還させたベテラン機長を讃えた作品である。満員の乗客を詰め込んだ旅客機が高度一万メートルを飛行中、突然操縦席のフロントガラスが割れてしまった。このため機内の気圧が下がり、操縦不能状態に陥った。機長も呼吸困難で倒れてしまった。だが機長はそんな状況の中でも沈着冷着に操縦桿を握り締め、無事に旅客機を着陸させることに成功する。昨年(2018年)中国の四川航空で実際に起こった事件を映画化したという。


一方、『烈火英雄~戦士達に贈る物語~』は大火事の消火作業に取り組む中で殉死した若い消防士の死を悼むという映画。ある港湾都市に設けられた船舶用燃料保管地区で火災が発生、瞬くうちに林立する巨大なガスタンクに火が回る。燃えているのが燃料オイルであることから消火も難しくヘリコプターから消火剤をまいても効果は見られない。そのうち住民が避難を始め町は大混乱に陥ってしまう。出火の原因は保管地区の職員がオイルパイプのバルブを閉め忘れたことだと知った消防士がそのバルブを閉めるために猛火の中に飛び込み、戻ってくることが出来なかったのである。

機長と消防士とそれぞれ役割は異なるが、与えられた任務を全力を尽くして、時には命を賭けても完遂する。こういう市井の名もない英雄、人民英雄を讃えたこれら二本はいわゆる英雄主義映画に分類される。『高度一万メートルの奇跡』を筆者と共に観た知人の中国人は「また共産党の宣伝映画だ」とつぶやいたが、たしかに宣伝臭が強いのが気になる。だがパニック映画の要素も加わり、またSFX(特殊撮影技術)やCG(コンピュータグラフィックス)による火災現場や航空機事故などのシークエンスも見ごたえがあった。エンターテインメント映画としても悪くないように思う。黒い雲に閉ざされた山岳地帯を飛行する小さな航空機や燃え上がるオイルタンクの上で消火作業に当る消防士達のシルエットがスクリーンいっぱいに広がる真っ赤な焔の中に浮かび上がるシーンなどはとてもよかった。

<克服されない英雄主義映画の問題点>

もっともいいたいことがないわけではない。まずストーリーが単純すぎること。もう少し何とかならないものだろうか。また機長や消防士ら英雄たちがどんな人物であるのか、どんな生活を送っているのか、普段何を考えているのか、そこら辺がまったくわからない。つまり英雄たちの内心世界が見えないのである。英雄も普通の父親であり、夫であることを強調するため家族や子供と一緒の場面をいくつか加えてお茶を濁そうとしているが、これもいただけない。

英雄主義映画のこのような問題点は中国映画史の中ではつとに指摘されているのだが、まだ完全にはなくなっていないようである。このジャンルの作品は1950年代から60年代半ばごろにかけて数多く作られた。当時の英雄主義映画の欠点としていつも指摘されるのが①ストーリーが単純で、曲折、起伏が不十分②英雄が完璧すぎて欠点がない③英雄には人間的側面が欠けており、一般の人たちよりも高尚な人物に描かれることが多いなどである。したがって英雄的人物を描くに当っては英雄の社会的、政治的活動だけでなく人間性や愛情問題、友人との関係など人間的な側面も忘れてはならないというのが映画界の共通の認識になっている。それにもかかわらず旧態依然たる英雄主義映画がいまなおこうして作られているのはなぜなのだろう。


写真1:『流転の地球』より、凍てついた地表では防寒服なしには生きられない。NPO 法人日中映画祭 実行委員会提供。



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