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東京・中国映画週間とSF 超大作『流転の地球』など最新作いくつか(上) 戸張東夫

東京・中国映画週間とSF 超大作『流転の地球』など最新作いくつか(上) 戸張東夫

<東京・中国映画週間とSF 超大作『流転の地球』など最新作いくつか>

東京・中国映画週間が今年(2019年)も10月22日から11月1日にかけて開かれた。2006年に開始されたイベントだというから今年で14年目となる。この間わが国が尖閣諸島を国有化した(12年9月)ことから中国各地で反日デモが起こり、日中関係が正常化いらい最悪の状態に冷え込んだこともあったから、中国映画週間をここまで継続することが出来たのは関係者の人には言えない苦労もあったに違いない。それなりに感謝しなければならない。筆者としては中国映画ファンの一人としてこのようなイベントがいつまでも続くことを祈って止まない。


今年の中国映画週間では『青雲~投げ出した人生の拾い方~』、『烈火英雄~戦士達に贈る物語~』、『高度一万メートルの奇跡』とアメリカやカナダの一部で公開され中国のSF 映画として評判になった『流転の地球』の四本を観ることができた。映画を観る前に内容を調べる習慣がないのであたり外れがあるのは避けられないが、今年観た作品はいずれも面白く、楽しめたのでこれらの作品についていささか語ろうと思う。

 



<中国映画ファンが年毎に少なくなる?>

中国映画週間は開会式とオープニング作品および一般上映に東京都写真美術館ホール、閉幕式とクロージング作品の上映には有楽町朝日ホールを当てた。筆者は四回ほど東京都写真美術館に足を運んだが、わずか百九十席しかないホールが満席になったのは一回だけで、残りの三回は三分の二近くが空席で寒々とした印象だった。何か特別な映画上映会が開かれているという華やいだ賑わいは一度も見られなかった。年を追う毎に中国映画の観客の数が少なくなっていくように感じられる。気になるところである。上映会場が映画ファンにあまり縁のない東京都写真美術館ホールでしかも都心から離れていることもファンが足を運んでくれない一因かもしれない。もちろん映画が面白いかどうかが最大の問題であることはいうまでもないのだが。

日中関係が良くないと中国映画を観る人の数が減ってしまう。中国映画の配給に携わっている知人が以前そんな話をしてくれたことがある。そのような要素があるのかも知れない。日中両国国民がお互いをどう考え、どう見ているのかを調べるために言論NPOと中国国際出版集団が共同で実施した「第15回日中共同世論調査」の結果が最近(2019年10月)北京で発表されたという。それによると日本側では、中国への印象を「良くない」と回答した人は84.7%、この一年で日中関係が「悪くなった」と答えたのは31.8%だった。一方中国側は日本の印象を「良い」という人は45.9%だった。(『読売新聞』2019年10月25日)わが国は来年(2020年)4月中国の国家主席の習近平さんを国賓として招待する計画だが、国民レベルでは日中関係はまだ十分改善されてはいないということであろう。これもまた中国映画週間の観客数が期待したほど大きくなかった背景の一つかもしれない。

今年の東京・中国映画週間で上映された十作品を別表(クリックすると拡大)にまとめてみた。一つだけ昨年(2018年)の作品が混ざっているが、それ以外は全て今年(2019年)の新作である。筆者は先に今年は四本の作品を観ることが出来たと述べたが、本当は四本しか観ることが出来なかったというべきであった。というのはこのようなイベントがあれば一日二、三本“はしご”しても疲れるということはなかったのである。ところが今では一日一本以上見ると目が痛くなったりする。困ったものだ。歳は取りたくないものである。

<映画『青雲~投げ出した人生の拾い方~』と主演女優姚晨>

『青雲~投げ出した人生の拾い方~』は自分が卵巣ガンであることを知った若い独身女性のドラマ。彼女はジャーナリストとして自由奔放に生きてきたが、ガンを宣告されてやはりショックを隠しきれない。摘出手術を受けることに決めたが、独身のまま手術を受けるかどうかの決断が出来ず心理的に動揺するが、その心の揺れを無謀な行為で解決しようとする切羽詰った彼女の心情を女性監督が大胆に、だが温かい目で映像化した。この女性を演じたのが姚晨である。彼女は独立心の強い知的な女性、矛盾や葛藤を抱えている女性、何か人に言えない秘密を抱いている女性、などの役柄が良く似合う。まあ俗にいう翳のある女優なのである。

正直にいうと、彼女を見んがためにこの映画を選んだのである。あれは半年前ぐらいだったか。『都挺好(All IS WELL)』というタイトルの中国の連続テレビドラマを観る機会があった。蘇州で暮らす五人家族の生き方を時代と共に変化する家族関係や人々の意識とからめてみつめるドラマだった。この家族に末娘がいる。自分につらく当る家族を捨てて家出して、独力で社会的地位を手にした時代の先端を行く女性である。家族を憎み、接触も断っているのに、家族の絆を捨てきれず終いに父親の世話まで買ってでる。このような新しくて古い、古くて新しい複雑なタイプの末娘になったのが姚晨だった。難しい役柄を見事にこなしていた。変化する中国と中国の人々を描いたいいドラマだった。というわけで毎回四十五分で四十六回という長いドラマが終わった時にはすっかり彼女のファンになっていたのである。


写真1:『青雲~投げ出した人生の拾い方~』の姚晨。NPO 法人日中映画祭実行委員会提供。

写真2:中国映画の新作十本



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