新型コロナの近縁種発見 直井謙二
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新型コロナの近縁種発見
2026年5月、毎日新聞が、東京大学医科学研究所の佐藤佳教授らの研究チームが、タイに生息するコウモリから、新型コロナウイルスに近縁で、人の細胞に感染する能力を持つ新たなコロナウイルスを発見したと報じた。
実験では、このウイルスが細胞に結合する力は、数年前に中国で見つかったとされる新型コロナウイルスよりも強かったという。一方で、細胞に結合した後に増殖する能力は低く、病原性は非常に低いとされている。
コウモリはインドシナ半島を広範囲に移動し、異変を繰り返すことで、さまざまなウイルスの出現につながっているとされ、中には将来、パンデミックを引き起こす可能性を秘めたウイルスが潜んでいるとの懸念もあるという。このニュースを聞いて、私は東南アジアで15年にわたって取材したコウモリの姿を思い出した。これまでに何度かコウモリを取材したが、振り返ってみれば、かなり危険な取材を繰り返していたことになる。
コウモリの住みかはさまざまだ。高い木の上、洞窟、人が出入りする建物など、種類によっても、生息環境によっても異なる。しかも、ときには数百万匹ものコウモリが、数年単位で住みかを移し、それまでいた場所から突然姿を消すこともあるという。
最初にコウモリを取材したのは、1986年のタイのアユタヤだった。大木の枝という枝に無数のコウモリがぶら下がっていた。昼間は、ほとんど動かない。逆さまになったまま、じっとしている。その光景は異様でもあり、どこかユーモラスでもあった。
次に訪れたのは、ミャンマー国境に近いカンチャナブリ近郊のカオ・チョン・プラン寺院だった。小高い丘の上に建つ寺の下に洞窟があり、そこには500万匹ものコウモリが生息していた。夕暮れになると、洞窟から一斉にコウモリが飛び出してくる。それは、まるで夜空に流れる天の川のようだった。数百万匹のコウモリが、帯状になって整然と飛び続ける。(写真)なにしろ500万匹である。

最初の一群が飛び出してから最後の一匹が姿を消すまで、およそ2時間。夕暮れ時の洞窟は、まさにコウモリのラッシュアワーだった。コウモリは夜になると周辺の田畑へ飛び、農作物を荒らす害虫などを捕食する。そして朝日が昇るころになると、再び洞窟へ戻ってくる。
洞窟の中にも入ってみた。そこは、コウモリが排泄した糞が大量に堆積していた。強烈な臭いが立ち込めていた。しかし、この糞は単なる廃棄物ではない。農業用の肥料として利用され、集められて売られていた。
当時は、コウモリがこうした場所でウイルスを保有している可能性など、ほとんど意識していなかった。それからおよそ10年後、今度はカンボジアのアンコール遺跡を取材していた。シェムリアップを中心に点在するアンコール遺跡では、盗難を避けるため、仏像などの貴重な遺物の多くがプノンペンの国立博物館に収蔵されている。遺跡に置かれているのはレプリカだ。
取材の途中で、その国立博物館を訪れた。館内に入ると、職員たちが懸命に掃除をしていた。聞けば、天井裏に50万匹以上のコウモリがすみついているという。そこから大量の糞が天井から落ちてくる。コウモリの糞による汚れや脱色などで、重要な展示品が傷むのを防ぐため、職員たちは毎日のように掃除を続けていた。そして、天井裏にも入ってみた。ライトを向けると、光に驚いた無数のコウモリが一斉に動き出した。暗闇の中で、無数の羽音が響いた。
それから数年後、博物館に連絡してみると、いつの間にかコウモリは姿を消したという。職員たちは、ほっと胸をなで下ろしていた。コウモリは、ときとして突然、すみかを変え、人間の生活圏に近い場所にも入り込む。珍しい習性と映像的に魅力的なターゲットだが、振り返ると危ない取材を繰り返したことになる。



