第28回 港街・釜山にそびえる 金井山 森正哲央
第28回 港街・釜山にそびえる 金井山
韓国を代表する港街・釜山は山が多い。西区の巌光山(504m)、釜山鎮区の白陽山(641m)、海雲台区の長山(634m)、影山区の蓬莱山(395m)など多くの山が街の風景を形づくっている。なかでも最も高くて大きく、街の成り立ちに大きな影響を与えているのが金井山(802m)だ。
釜山の街は梁山市東面から東來区へ南北へ延び、金井区と北区の広い範囲をしめる金井山に沿って発展してきた。登山口は金輪寺がある梁山市沙松里外松、北の梵魚寺駅、西の金谷駅、東側の斗実駅や温泉場駅、南の金剛公園、萬徳洞の萬徳峠など数多い。
登山コースは、北の姑堂峰(802m)から南門に続く主稜線の両側に分かれて縦横に走り、釜山の街を眼下に爽快な稜線漫歩が楽しめる。今回は南の金剛公園から主稜線を北へ抜け、最高峰の姑堂峰を経て禅刹大本山の梵魚寺へ下るコースを紹介したい。
金剛公園までは明倫洞駅か温泉場駅で下車し徒歩15分。園内にはメリーゴーランドなどの遊戯施設、民俗芸術館、海上自然博物館などもあって規模が大きい。1967年開通のロープウェイで中腹まで一気にあがったが、歩くと約50分かかる。山頂駅からまずは金井山城の第2望楼を目指す。
金井山の尾根はアルファベットのC形で西に向かって開いている。その尾根沿いにのびるのが長さ16・5キロの金井山城。文禄・慶長の役と丙子胡乱を教訓に、1703年から築城をはじめた金井山城は、かつて東莱山城と呼ばれた。韓国五大山城の一つで、山城としては最大規模を誇る。現在見ることができる南門、東門、西門、そして望楼は1972年から89年にかけて復元されたものだ。
第2望楼から20分で南東のピーク、大陸峰(平平岩)につくと東の視界があけ、釜山の街が眼下に広がった。海雲台区の高層ビル群、水営湾にかかる広安大橋が目をひく。海岸沿いには、金井山とともに釜山の街を挟み込むように長山が対峙する。
大陸峰からは、山城村の山城峠へ一度下降する。山城村は金井山の尾根に囲まれた盆地状の山上集落で、マッコリ博物館、美術館などがあり、特に山城マッコリと黒山羊料理が有名とのこと。東の温泉洞と西の華明洞から車道が通じ、東莱温泉場駅からバスが出ているので、山城村で下車し山行を始めるという手もある。車道の通る山城峠まで下りたら、元暁峰へ向けて登り返す。
金井山は北に行くにつれてアップダウンがきつくなるが、見晴らしが良く、爽やかな稜線漫歩の趣となる。第4望楼、東の最高峰元暁峰を過ぎたら、山城村、梵魚寺、姑堂峰へと通じる十字路の北門へ下る。水場がある格好の休憩地で、2階建ての登山文化探訪支援センターでは、金井山の生態や散策路の情報も提供している。
姑堂峰へ向かうルート最後の登りは、階段がよく整備されている。下から避難小屋のように見えた山頂下の建物は金井山山神閣・姑母善神堂で、中を覗くと神棚に山王大神と姑母善神の霊牌が安置してあった。姑堂峰には次のような話が伝わっている。
1592年に梵魚寺が日本軍の攻撃を受けて焼け落ちた時、密陽に住むある化主菩薩(お布施を集める女性信徒)が寺の再建に尽くした。彼女は「私が死んだら火葬し、峰の下に姑母善神を祭る祠堂を建てて祀ってほしい」と遺言を残して亡くなった。遺言の通りにしたところ梵魚寺は発展したので、祠堂が建つ峰が姑堂峰と呼ばれるようになった……
眼下には田んぼが日差しをあびてきらきら輝き、悠然と流れる韓国最長の洛東江に梁山川が眼下で流れ込んでいる。金井山と梵魚寺の名は、かつて山の頂にあったという金色の水が湧く井戸に由来する。井戸では梵天から下ってきた金色の魚が泳いでいた。その証左ともいえそうな、金井と呼ばれる岩が姑堂峰直下の森の中にあるので、下山時に立ち寄る。侵食された岩の窪みに雨水が溜まり井戸のように見える。
再び北門に戻り、梵魚寺へ下る。姑堂峰~梵魚寺間は3.6キロあり、下山は50分、上りは70分かかる。梵魚寺は678年、義湘大師が創建した韓国禅宗の総本山で、釜山観光の定番コースでもある。寺の生活を体験する「テンプル・ステイ」に参加したのか、暗灰色の作務衣を着た欧米人3人とすれ違う。梵魚寺からバスで地下鉄・梵魚寺駅に出て山行を終えた。
「2016年8月初掲」
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