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第1回 青瓦台の裏山、北岳山 森正哲央

第1回 青瓦台の裏山、北岳山 森正哲央

第1回 青瓦台の裏山、北岳山

韓国登山支援センターの調査によると、18歳から69歳までの韓国国民(3570万人)のうち、2か月に一度は山へでかける人は1886万人を数え、同年齢の53パーセント、2人に1人におよぶ。登山は文字通り、韓国の国民的なレジャーといえ、多忙な都市生活を送る韓国人にとって山は、英気を養える貴重な憩いの場となっている。

韓国の山は、その標高だけ見ると、最高峰の漢拏山でも1950mに過ぎないが、低山のなかにも際立つ峻峰や懸崖、歩むごと異なった表情を見せる白肌の奇岩怪石、由緒ある山間の古刹や磨崖仏などとも相まって、日本の山とはまたひと味もふた味も違った魅力を持っている。

だが残念ながら日本で、韓国の山に興味を持っている人は多いとは言えず、韓国人から「日本アルプスへ登ってみたい」「(鳥取の)大山へ行って来たよ」などといわれるのとは対照的だ。

そこで、この連載では日本で紹介されることの少ない山も含めて取り上げ、その魅力を少しでも伝えることができればと思う。  
     
第1回目は、ソウルのランドマーク、北岳山(342m)を取り上げたい。

ソウル・景福宮に行ったことがある人なら、そのやや左手後方に険しい岩肌が露出した山が見えたのを記憶しているのではないだろうか。近年ソウルでも頻発するスモッグや黄沙のため霞んでいる日も多いが、この山が北岳山。風水地理説ではソウルの主山(玄武)にあたり、ニュースによく登場する大統領府・青瓦台も、北岳山の南麓に建っている。

北岳山の稜線には、14世紀以降に築かれた城郭「漢陽都城」が残り、北岳山ソウル城郭探訪路(北岳山公園)として市民に開放されている。だが、青瓦台周辺は韓国で最も警備が厳しい場所。1968年には北朝鮮ゲリラがすぐそばまで侵入する事件(青瓦台襲撃未遂事件)も起きており、現在でも北岳山は軍事施設保護区域となっている。探訪路自体も2007年4月、40年ぶりに開放されたばかり、訪ねるには身分証明書の提示が必要となる。

探訪路への入口は、三清洞のマル岩(馬岩)案内所と粛靖門案内所、清雲洞の彰義門案内所の3カ所。今回はマル岩案内所から粛靖門、白岳山を経て、彰義門案内所へと抜ける「第1コース」(下記参照)を歩いた。

マル岩への登山口は臥龍公園が一般的だが、青瓦台を見学するため景福宮の光化門からスタート、青瓦台前通りから三清洞路へと抜け、三清公園の後門から登り始めた。

青瓦台は観光地となっており、正門前にはカメラを提げた大勢の中国人が訪れていた。正門前を過ぎ、青瓦台側の歩道へ移ろうとしたところ、私服の警官に制止される。青瓦台側の歩道は、政府職員しか歩けないそうだ。

三清洞路の坂を上がっていくと、やがて木々に覆われた公園に到着。整備された歩きやすい山道へ入り約25分でマル岩案内所に着く。ここで「出入り申請書」に記入、パスポート(あるい外国人登録証)と一緒に受付へ。IDカードを受けとり、首から提げていよいよ中へ入る。探訪路にはトイレがないので、ここで済ませておく。

城郭に沿いの道は階段となっている区間が多く歩きやすく、ゆるやかなアップダウンを繰り返す。城郭は太祖(1396年)、世宗(1422年)、粛宗(1704年)の時代に築かれ、石の大きさや形によって識別できる。平日ということもあって人は多くない。ガイドブックで紹介されているのか、何組か欧米人ともすれちがった。冬特有のスモッグで霞んでいるが、北には香爐峰、冠峰、文珠峰(723m)へと続く北漢山の山並みがひときわ高く、ソウルの地勢が手にとるように把握できる。

だが、青瓦台のある南側は視線が遮断されている場所が多く、写真撮影ができる場所もあらかじめ決められている。黒服に身を包んだ警備隊員が狭い場所では数十メートル間隔で立ち、肩に小銃を提げた軍人が歩哨から周囲に睨みをきかす。常に人の視線が感じられるので、さすがに開放感は感じない。展望台で昼食をとっている間も警備隊員が一人つきっ切りで横に立っていた。

青雲台(293m)と山頂の白岳山(342m)の途中に、15発の銃痕が残る一本の松が生えている。北朝鮮から侵入した武装ゲリラと韓国軍が繰り広げた銃撃戦の痕だ。松自体は撮影して良いが、やはりここでも周りの風景を写し込まないように撮影の角度などは厳しく制限されていた。

約1時間半で彰義門案内所につき外へ出ると、正直ホッとする。警備の徹底ぶりに韓国の置かれている厳しい現実を改めて実感するとともに、一方で高いコストを払っても、自然および文化遺産を市民に開放するという韓国社会の流れも感じとることができた。

彰義門そばの紫霞門峠バス停からバスに乗車、地下鉄駅3号線の景福宮駅にでることができるが、時間と体力に余裕があったら、北岳山の西に伸びる仁旺山(338m)への登山をぜひお薦めしたい。北岳山と違い自由に入れるが、警備隊員が各所に立っている点では変わらない。また、その南麓にはソウルのパワースポットの一つ、禅岩がある。袈裟を着た僧侶にも擬せられる2つの大きな岩は、シャーマニズムとも結びつき、今も信仰の対象となっている。

【登山メモ】
●コース
コース1 マル岩案内所~粛靖門~白岳山~彰義門案内所(2.2キロ)
コース2 粛靖門案内所~粛靖門~白岳山~彰義門案内所(2.3キロ)
コース3 彰義門案内所~白岳山~粛靖門~マル岩案内所(2.2キロ)

●入場時間
3月~10月:9時~16時の間に入場(18時までに退場)
11月~2月:10時~15時の間に入場(17時までに退場)

●定休日:毎週月曜日

●臥龍公園へのアクセス
地下鉄3号線・安国駅から支線(緑色)バス「鐘路02番」に乗車し、成均館大学後門で下車するか、地下鉄4号線恵化駅から支線(緑色)バス「鐘路08番」に乗車し終点の明倫3街で下車

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