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5年前香港で消えた明天集団・肖建華オーナーの裁判が上海で始まる-政経癒着が問題に(下) 日暮高則

5年前香港で消えた明天集団・肖建華オーナーの裁判が上海で始まる-政経癒着が問題に(下) 日暮高則

5年前香港で消えた明天集団・肖建華オーナーの裁判が上海で始まる-政経癒着が問題に(下)

 

<肖建華訴追の背景>

肖建華氏が国内に連行された2017年は第19回党大会を前に、新人事体制を巡って激しい党内抗争が展開されていた時期だ。習近平主席は、今後5年間の権力集中とその後の権力継続を図るために、これに立ちはだかる江沢民元主席系の勢力つぶしに出ていた。香港メディアによれば、肖建華氏は江沢民系幹部である曽慶紅元国家副主席、賈慶林元全国全国政協会議主席、周永康元政治局常務委員兼政法委書記、張徳江元全人代常務委員長らの家族、親戚と親しかったとされる。そのため、習近平主席にとっては、政敵の資金調達を管理する肖建華氏は”邪魔者“以外何者でもなかったであろう。今回の初公判が同じく党大会を目前にした時期に当たっているのは、権力闘争との絡みがないわけはない。

  

肖建華氏は2017年の拘束後、党中央規律検査委員会の調査を受け、江系幹部の太子党の海外資産運用やマネーロンダリングにどう関与していたのかを聞かれてきたのは確かだ。特に、肖氏は曽慶紅氏の子息で現在オーストラリアに住み、対中ビジネスを展開する曽偉氏や、曽慶紅氏の実弟で、中国芸能界のボスとして君臨してきた曽慶淮(元文化部特別巡視員)の資産増やしに協力していたと言われるだけに、検査委は彼らの資金の流れの解明を進めていたはずだ。今回、裁判でその辺の事情を公にし、今秋党大会で習近平3期目に口を出させない状況作りを進める狙いがあったに違いない。

 

曽偉氏関連でとりわけ注目されるのは、中国の経済誌「財経」も報じたことがある山東省の最大国有企業「魯能集団」の買収問題。同集団は電気、ガス、鉱山、不動産、金融など多くの事業を行い、738億元の資産を持つ。その大企業集団が2007年、2つの民間企業に30億元余で買収されたが、買収企業のうちの一つは明天系企業の「新時代信託」が大株主になっている。
その後、魯能集団の董事会に曽偉氏が名を連ねていることが分かり、肖氏のバックに太子党が暗躍していることが浮き彫りになった。曽偉氏と明天系企業はこの取引で差し引き700億元以上の国有資産を手中にしたとされる。財経誌は、王岐山規律検査委書記(当時)と深いつながりがあり、腐敗摘発情報はしばしば同誌から発せられている。このため、同メディアが魯能集団買収”事件“を掲載したのは、検査委が曽偉氏の摘発を示唆したことに他ならない。

 

また、香港の週刊誌「壱週刊」によれば、明天系のIT関連企業「北京康海天達科技公司」は2013年1月、習近平主席の実姉、斉橋橋さんとその夫鄧家貴氏が経営支配する投資企業「CCBインターナショナル・ユアンウェイ・ファンド・マネジメント」(中国建設銀行との合弁企業)の半分の株式を1500万元で買収、傘下に収めたという。これも問題だったと指摘されている。この買収時、明天系企業のスポークスマンはわざわざ「習近平家の投資会社が株売却を決意したのなら、こちらは損を被ったとしても惜しくも何ともない」などと語り、習主席ファミリーにゴマを擦るような発言をした。肖氏は江沢民系ばかりでなく、習家の関係会社ともつながることで、身の安全を図ったのであろうが、習氏は逆に、江沢民系幹部太子党と関係が深い肖氏の買収を知り、むしろ不快感を募らせたのではなかろうか。

 

<裁判とその後>

初公判は7月4日、上海の法院で開かれた。中国側は法院が初級(基層)か中級か高級か、どのレベルでの開廷かをメディアに明らかにしていない。肖建華氏がカナダ国籍であるため、カナダ政府、大使館が傍聴を求めたが、当局側から拒否された。趙立堅外務省スポークスマンも記者会見で質問を受けた際、「肖建華に関する情報は持ち得ていない」と軽くかわすのみだった。つまり、裁判はまったくの非公開の形が取られている。

 

WSJ紙が伝えた肖建華氏の起訴内容は「不法に公共の預金を吸収した(非法吸収公共存款)の罪」とのこと。虚偽内容で許可されていない不動産物件を販売したり、無辜の民から投資資金を集めたりしたことだと説明しているが、具体的に何を指すのかは皆目分からない。要は、彼を拘束する起訴事実はどうでもよく、拘束していることに意味があるように思われる。肖建華氏を習近平指導部に都合の良い供述を取るための条件下に置いておくことで政敵に圧力をかけられれば十分なのであろう。

 

中国が今後世界に冠たる国家を目指すなら、肖氏の金融、情報に関するグローバルな展開構想は的を射たものであろう。世界情勢を見据えて経済面で中国が影響力を発揮するためには彼のような有能な人材が必要なのであろうが、残念ながら、今は党内抗争、“政争の具”一つの駒として監獄の中にいるだけだ。彼の兄肖新華氏はWSJ紙の問い合わせに対し、「我が家(肖建華一家)は弟が厳格な要求をする中で、依然中国政府と法律を信じている。当局が我が一家に受け入れられるべき結論を出すことを願っている」とだけ述べた。これを見る限り、肖建華一家は、彼の逮捕、拘束が不当で、やがて真実が明らかになれば釈放され、ビジネスの現場に戻れると踏んでいるようだ。

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