1. HOME
  2. 記事・コラム一覧
  3. コラム
  4. 第580回 タイで最も有名な日本人は青年将校「コボリ」 直井謙二

記事・コラム一覧

第580回 タイで最も有名な日本人は青年将校「コボリ」 直井謙二

第580回 タイで最も有名な日本人は青年将校「コボリ」 直井謙二

第580回 タイで最も有名な日本人は青年将校「コボリ」

今や高齢者も知っている「嵐」も「山P」も25年前バンコクに赴任していた頃はタイ人の女子学生にインタビューして初めて知った名前だ。(写真)インターネットは流行を同時多発にした。タレントも例外ではない。



タイで最も人気のある日本人は誰か?を探る民放のテレビ番組を見た。タレントやスポーツ選手、それに日本を紹介するタイで有名な日本人レポーターなども退けて、第二次大戦中タイに駐留していた旧日本軍の「コボリ」青年将校がトップだという。

「コボリ」つまり小堀海軍将校はタイの小説「クーカム」、日本語の題名は「メナムの残照」に描かれた旧日本軍の将校という架空の人物で、作者はタイ人女性だ。

 「コボリ」は自由タイに属し、反日だったタイの女性アンスマリーと紆余曲折を経て恋におちるというストーリーで何度も映画化やテレビドラマ化されたことは書いた。(「アジアの今昔・未来」第348回アジア諸国の反日感情 2)実在しない人物が有名タレントやスポーツ選手も退け絶対的な人気を誇っているのだ。

 小説の中で二人は人知れず逢瀬を重ねるが、戦時下で軍律が厳しいなか日本の青年将校が人目を忍んで逢引するなど現実では考えられない。さらにふたりは結婚式を挙げ、アンスマリーは日本名「ヒデコ」に改名する。

 テレビドラマも映画も戦時下とは思えないような映像が展開される。日本ロケが行われた場面では敗色濃厚の日本に見えない優雅な風景が広がり、米軍の空爆の跡もなく美しく荘厳な神社が紹介される。

 一方「コボリ」は米軍の爆撃を受けてタイで死亡する。ロマンに満たされた架空のラブ・ストーリーに無粋にも疑問を投げかけ水を差すつもりはないが、不思議なのは70年以上も前のドラマの架空の人物がいまだにタイで人気ナンバー1の日本人だということだ。男性の理想像を「コボリ」に託したという意見もある。

 日本でも戦時下の恋を描いたラジオドラマ「君の名は」が始まると銭湯から人がいなくなったという逸話が残っている。そして、映画化やテレビドラマ化もされ、60年以上たった今でも年配者を中心に根強い人気がある。

 ドラマの主人公の「春樹」と「真知子」の名を憶えている人も多い。両方とも戦争を背景にし、結末が悲劇的な点も似ている。強烈な架空の人物のイメージは次々デビューするタレントや俳優と違って年を取らないし、世代交代もない。さらにメンタルの面で日本人とタイ人が似ていることも影響しているのかもしれない。

タグ

全部見る