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第578回 政策方針が見えないフィリピン新大統領 直井謙二

第578回 政策方針が見えないフィリピン新大統領 直井謙二

第578回 政策方針が見えないフィリピン新大統領

36年前、民衆の反政府デモの中で故マルコス大統領はグアムに避難し、エドサ革命は成功した。マニラ支局がまだなかったことから駐在していたバンコクから出張を繰り返し85年12月からの1年間で15回以上バンコク・マニラ間を往復し、マニラに144泊した。

旧マルコス政権が倒れた原因は軍を背景にした独裁や巨額の賄賂疑惑それに政敵の暗殺疑惑などがあげられる。旧マルコス政権の発足当初は経済運営や治安などで一定の評価があったが、その後クローニーと呼ばれる取り巻きの意見だけを聞き民衆が離反した。結局20年間続いた独裁政権は倒れたわけだが、どんなに優れた政治家でも長期政権になれば腐るという諺通りになった。このためフィリピンでは6年で大統領は入れ替わるよう憲法で規定された。

マルコス新大統領は選挙キャンペーンで自らの政策はほとんど語らず、父親の初期の実績を訴えるに留まった。一方でフィリピンを取り巻く環境は大きく変わった。国際的には東西冷戦構造の崩壊や中国の南シナ海などへの進出、国内的には他のアジア諸国に比べバスに乗り遅れた感があった経済成長に改善が見られたこと国際的な非難を顧みない前大統領の強引な取り締まりで麻薬の被害が減ったことなどがあげられる。

 

ところが国の内外の変化にもかかわらず父親の実績を訴えだけで新大統領は自らの政策を打ち出していないことに不安を感じる。父親の時代はスビック米海軍基地とクラーク米空軍基地という極東最大のアメリカ軍基地がベトナムのカムラン湾基地に停泊する旧ソビエトの艦船をにらんでいた。東西冷戦構造の崩壊もあって90年代半ばに両基地はほぼ廃墟になった。艦船の消えたスビック基地(写真)や滑走路がピナツボ火山の灰をかぶり壊れた管制塔が残る殺伐としたクラーク基地跡が脳裏に焼き付いている。

現在は中国の海洋進出とそれに懸念を抱くアメリカとの確執に変わった。新大統領の勝利宣言直後にアメリカのバイデン大統領が直接電話で祝意を伝えるなど米中双方が新大統領への接近を図っている。新大統領の米中への姿勢が明らかになっていない。また、6月末の大統領就任宣誓式を前に早くも中国漁船100隻が南シナ海南沙諸島でフィリピンの主張するEEZ内で操業を開始し、フィリピンは抗議した。

経済発展と治安維持という内政と米中との難しい外交問題に迫られる新大統領の今後の政権運営は厳しいものになりそうだ。

《アジアの今昔・未来 直井謙二》前回  
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