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第348回 アジア諸国の反日感情 2  直井謙二

第348回 アジア諸国の反日感情 2  直井謙二

第348回 アジア諸国の反日感情 2

大戦中、形の上では戦闘がなかったタイであるが、タイ国内で反日感情に触れることはまれである。1970年代、日本製品の過大な輸出に反発した学生が田中元首相を一時軟禁する事件もあったが、プラザ合意以降日本企業などのタイ進出で雇用も反日感情も改善した。観光や長期滞在の人気が高い理由の一つになっている。映画「戦場に架ける橋」で一躍有名になった泰緬鉄道の企画で数人のタイの退役軍人を取材していた時のことだ。筆者は「第二次大戦中建設された泰緬鉄道について教えてほしい」と質問した。退役軍人は「日本人でありながら第二次大戦とは何事だ。なぜ大東亜戦争と言わない」と筆者に噛みついた。

労働力、物資すべてが不足し、建設にあたってはイギリス軍人などの捕虜のほかにマレーシアなどから十数万人のアジア人労働者が連行され、過酷な労働を強いられた。機関車の不足のため、車を機関車に改造したという。(写真)一方で日本軍は同盟国であるタイの労働者には給料を払い過酷な労働を課すことはなかったという。


建設の起点となったカンチャナブリを舞台に日本の青年将校とタイの若い女性の恋愛と悲劇を描いた小説「メナムの残照」は多くのタイ人に愛読されている。何度かテレビ化され毎回高視聴率を上げていた。物語はコボリ将校とタイの若い女性が人目を忍んで逢瀬を重ねついに結婚する。タイ女性は名前をヒデコと日本式に改める幸せな二人だったが、敵の爆撃に遭いコボリ将校は戦死する。ストーリを熟知しているファンからテレビ局にコボリ将校を死なせるなという投書が寄せられる。筆者もカンチャナブリで見知らぬタイ人から「日本人のコボリさん、ヒデコさんは元気ですか」とひやかされ戸惑ったことがある。

9年間のタイ駐在で反日感情を感じたのは1回だけだった。支局の女性助手は日本語を理解し、何度も日本を旅し東京の我が家にも投宿するほど親しい付き合いをした。ある日普段と違う表情を浮かべ「日本は残酷なことをした」と筆者に抗議のまなざしを投げかけた。
満州国皇帝溥儀の生涯を描いた映画「ラストエンペラー」を鑑賞した直後だった。助手は潮州系華僑の父とタイ人女性の母親を持つ。日本の満州侵略を初めて映画を通して知り、普段隠れていた中華系の血が騒いだのかもしれない。タイには反日感情などないと思い込んでいたことが恥ずかしかった。

「十分だ。もう謝らなくていい」というセリフは被害者が言うことだ。

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