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第4回 タイのジャングルに眠る泰緬鉄道跡  直井謙二

第4回 タイのジャングルに眠る泰緬鉄道跡  直井謙二

第4回 タイのジャングルに眠る泰緬鉄道跡

太平洋戦争中、兵站地だったタイからビルマ戦線に物資を送るために造られた泰緬鉄道。当時、すでに制空権を失い、米英機の爆撃にさらされながら、わずか1年で造られた泰緬鉄道はハリウッド映画「戦場にかける橋」で一躍、有名になった。映画ではイギリスの将校が技術指導に当たったように描かれているが、実際は満州鉄道を完成させた旧日本軍の鉄道隊が指導した。逆にビルマ(現在のミャンマー)を植民地支配していたイギリスは戦前、何度か泰緬鉄道の建設を試み、失敗している。

一方、捕虜に対する虐待は事実だが、欧米人より何倍もの死者を出したアジア人労働者について映画は触れていない。現在、鉄道はタイのナムトク駅が終点になっていて、ミャンマー領内の線路は撤去されている。爆撃を避けるため崖すれすれに走る列車や、旧日本軍が資材不足のあおりで鉄の代わりに木で架けた木橋などが目を引く。

また、機関車不足でトラックに鉄道車輪をつけた奇妙な起動車も残っている。現在はタイの観光発展に一役買っていて、日本人を含む大勢の観光客でにぎわう。観光客はナムトクまでの列車の旅を終えると、バスなどで帰路に就く。地元のタイ人でさえ、鉄道がかつてはビルマまで続いていたことを知らない人が増えた。ナムトクからミャンマー国境に向かってジャングルの中を歩くと、ところどころに枕木と砂利が残っている。(写真)


鉄でできている線路は売れるので盗まれてしまっている。線路跡を被う潅木(かんぼく)の太さが戦後63年の年月を物語っている。人影のない静まり返ったジャングルの中に入ると、切通しを削る捕虜の声や、煙を吐いて走る蒸気機関車の音が聞こえるような気がする。筆者は以前、線路跡をたどってジャングルをさまよっているうち、いつの間にかミャンマー領内に入り込み、武装したミャンマー兵士にいきなり機関銃を突きつけられ、冷や汗をかいたこともある。太平洋戦争を知っているタイの退役軍人も残り少なくなってきたが、旧日本軍の作戦がいかにめちゃくちゃで無謀なものだったかを話してくれる。対空砲火は高射砲1基。それも設置と同時に上空から偵察され、爆撃で壊されたという。アメリカの公文書を見ると、鉄道工事の進捗状況が完全にアメリカ側に把握されていて、効率よく破壊されていった様子がよく分かる。
イギリス人やオーストラリア人の捕虜や、訳も分からず強制的に連れてこられたアジア人労働者など何十万人もの死者を出した泰緬鉄道は結局、旧日本軍の敗走に役に立っただけだった。


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