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第451回 安全意識を徹底する君津製鉄所の合言葉の由来 伊藤努

第451回 安全意識を徹底する君津製鉄所の合言葉の由来 伊藤努

第451回 安全意識を徹底する君津製鉄所の合言葉の由来

昨年末に掲載の本コラム欄で予告した通り、約半年ぶりに今回は引き続き、わが国最大手の鉄鋼メーカーの君津製鉄所をめぐるエピソードを取り上げさせていただくが、同製鉄所で長年にわたり、安全を確保するために日常的に使われているある合言葉についての知られざる由来である。

大学時代の友人で、現在はフリーでドイツ語の通訳と翻訳の仕事に従事するAさんから、通訳業務で訪れた君津製鉄所がある君津市の町の様子や変遷などの報告記に続き、続報とも言えるような興味深いメールが数日後に届いた。前回の君津報告記を筆者の知り合いの鉄鋼会社元幹部のH氏に転送したところ、大いに喜んでくれたので、メールで再度、サービスしてくれたのであろう。

筆者とAさんのドイツ有力週刊誌の翻訳記事に関する仕事上の事務連絡のやりとりの後に、「追伸」の形で以下のような文章が添えられていた。大学同窓の私たち2人はかつて、ドイツ学徒だったこともあり、文中にドイツ語が何カ所か出てくることはご容赦願いたい。ちなみに、筆者もこれらのドイツ語の単語には初めて出会った。

「(PS)君津製鉄所では従業員同士が『ご安全に!』とあいさつしているので、初めは驚きました。製鉄所入り口にもこの言葉を記した大きな石碑があります。

社内の方に伺ったところ、『製鉄所内の事故はすぐにも死につながることが多いので、安全意識の徹底のためにそういう習慣になった』とのことでした。今、少しだけインターネットで調べたところ、このあいさつは住友金属工業が1953年、安全意識高揚のために始めて、それが鉄鋼業界に広まったとのことです。しかも、そのあいさつはもともとドイツの炭鉱夫が使っていたあいさつの言葉『Glückauf!』を和訳したものとのことで、さっそく独和大辞典を引くと、『Glückauf: (入坑する鉱員への)無事を祈るあいさつ』と出てきました。直訳すれば、『(無事に地上に上がってくるよう)幸運を祈る!』でしょうが、それを誰かが、安全意識徹底と日本語的柔らかさを両立させて『ご安全に!』と訳したのだろうと推測します。

ちなみに、辞書には『Glückab』もあって、こちらは『(離陸する搭乗員への)無事を祈るあいさつ』とのこと。調べ出すと、きりがないものですね。(Y・A)」

このAさんからのメールを早速、H氏に転送したところ、すぐに返信で届いたのが次のメールである。

「わたしは仰天しました。昔なんかは分からずに使っていた『ご安全に!』という工場内のあいさつがこういう回路を持つていたとは……。感激しているHより」

君津製鉄所と言えば、筆者の高校時代の友人が大学卒業後に入社したこの最大手鉄鋼メーカーで最初に勤務した工場であることを本人から聞いたことがある。何でも、君津製鉄所では労務管理が仕事で、そんな職掌から、工場で働く現場労働者ともよく酒を酌み交わしたと話していた。そんな豪放磊落なところもあるT君は60歳の第一次定年時にきっぱり会社を辞め、現在は若い頃からの夢だったという「世界放浪の旅」を実現させ、秘境と言えるような世界の各地を渡り歩いている。今、オーストラリアの大地をマウンテンバイクで踏破しているT君に今度会ったとき、「ご安全に!」の由来について知っているかどうか聞いてみたい。

 

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