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第592回 毎年雨期明け起きるタイの洪水 直井謙二

第592回 毎年雨期明け起きるタイの洪水 直井謙二

第592回 毎年雨期明け起きるタイの洪水

去年も地球温暖化とモンスーンによる洪水が世界の各地で起きた。340万人が被災したパキスタンほどではないがタイでも一昨年に続き、チャオプラヤ川別名メナム川が各地で氾濫し、9人の死亡者が出たという。メナム川が氾濫して町が水浸しになることは珍しいことではない。

筆者が駐在した9年間に数回車が通れないほど道路が冠水し、池から逃げ出したコイを捕獲しようとビル街で投網をする様子をレポートしたのを覚えている。タイ人が靴下をはかずサンダルを愛用する人が多いのだが暑さのせいばかりではなく冠水対策の時には便利なのだ。

洪水は災害ではあるが、かつては重要な役割も果たしていた。インド亜モンスーンの雨季の終わりは日本の梅雨明け同様に大変な豪雨に見舞われる。洪水は肥沃な土壌を運び、田畑を潤してくれる。また日本のように急激に洪水が襲ってくることはない。

メナム川は川の高低差が少ない。中部アユタヤからシャム湾の河口までおよそ80キロあるが高低差はわずか2メートルとなっている。そして、水量は多くゆったりと流れている。そのため、少なくとも1週間ほど前から洪水になることが分かる。

インド文化の影響を受けたタイでは農村部は古代から高床式住居が多い。床の下は涼しく農機具の手入れや機織りに適しているし、洪水になれば一時的に床上に運び上げれば被害は少ない。80年代の写真を見るとすでに床下は洪水だが、ボートで行き来する親子に緊張感は感じない。(写真)

地球温暖化の影響でタイでは毎年被災するようになり2年続けて10月に洪水が発生した。外に出られなくなった家庭に物資を支援する一方、川岸にあるレストランには水が押し寄せ魚がテーブルの下まで寄ってきて客を喜ばせている様子が日本のテレビでも紹介された。何事ものんびりとしているタイらしく、楽しんでいるようにも見えた。

しかし高度経済成長による産業構造の変化でのんびりしていられなくなっている事情もある。466人が死亡した2011年7月の大洪水ではアユタヤに進出している生産中の車が多数洪水に浸かるなど日本企業も大きな被害を受けた。長期にわたる冠水でサプライチェーンが寸断され多くの工場の操業がストップした。工場の建設で水を逃がすための大きな穴が埋め立てられたことも洪水を起きやすくしている原因のひとつとなっている。

プラユット政権は新たな治水計画を2018年にまとめたが、1つは2026年完成で、もう1つは実現可能か調査中という。対策もタイらしくゆったりとしていて今後も毎年のように洪水に悩まされそうだ。


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