1. HOME
  2. 記事・コラム一覧
  3. コラム
  4. 第4回 ヨーロッパにおける中国文物調査 森部豊

記事・コラム一覧

第4回 ヨーロッパにおける中国文物調査 森部豊

第4回 ヨーロッパにおける中国文物調査 森部豊

第4回 ヨーロッパにおける中国文物調査

前回まで、パリにおける研究環境、図書館の状況を紹介してきたが、パリの東洋学はこれに限ったことではない。パリには東洋美術館としてはギメがある。パリに行くと、ルーブル美術館やオルセー美術館についつい足が向いてしまうのはしかたないが、東洋学、ことに中国や中央ユーラシアに関心がある人は、ぜひギメ東洋美術館に足を運んでほしい。ここは観光でちょっと立ち寄るだけでなく、やはり何回か通ってじっくり「見る」ことが必要だ。

ギメ東洋美術館の入り口を入ると、1階のフロアはクメール文化など東南アジアの文物がならぶ。2階へ上がるとここから東ユーラシアの文物が展示される。中国、中央アジア、朝鮮、日本である。私の研究分野であるソグド関係でいうと、ここには中華民国時代に中国で出土したソグド人の葬具が展示してある。もとは河南省の安陽市付近で発見されたものらしいが、バラバラに売却され、現在はアメリカのボストン美術館、同じくワシントンのフーリア美術館、ドイツ・ケルンの東洋美術館がそれぞれ所蔵している。ギメのものは、遺体を置いた石棺牀の一部である。また、唐代の明器(お墓に埋葬した陶器)で胡人をかたどったものがある。ラクダの像とセットなのだが、そのラクダの背に載せている荷物がリアルで、実際の「シルクロード交易」で運ばれたモノを推測することが可能である。ぜひ、見てもらいたい一品である。

(ギメ東洋美術館)

また、パリには、アジア美術をあつかうセルヌスキ美術館があり、ここに収蔵されている中国関係の文物も必見である。パリばかりでなく、ヨーロッパには、イギリスの大英博物館をはじめ、スペイン(バリャドリッド)、ポルトガル(リスボン)、ギリシア(コルス)、ドイツ(ベルリン)、ロシア(サンクトペテルブルク)などにアジア史関係の美術や文物を所蔵しているミュージアムがある。パリに長期滞在すると、こういったヨーロッパ各地のミュージアムを集中的に調査することが可能であることも申し添えておこう。

一見すると、中国学とパリはかけ離れているようだが、決してそうではない。中国学に従事する研究者が中国へ行くのは、当たり前だが、あまりにもそれが当たり前になってしまうと、外国人である我々が「中国」にとりこまれ、外国人としての視点が曇ることがあるかもしれない。そのような時、アメリカでもヨーロッパでもいいと思うが、中国から離れた場所、特に非漢字文化圏から中国を見つめなおすのも、一つの方法ではないだろうか。若い研究者、中堅の研究者、あるいはベテランの研究者の方でも、この連載を読んで、もし興味を持たれたのなら、一度足を運んでみるのもいいのではないだろうか。


タグ

全部見る