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第564回 女性の人権とアフガニスタン 直井謙二

第564回 女性の人権とアフガニスタン 直井謙二

第564回 女性の人権とアフガニスタン

アフガニスタンの女性差別を調査してきた室蘭工業大学大学院の清末愛砂教授が、女性差別はアフガニスタンの政権を奪取したタリバン政権だけの問題ではなく、イスラム諸国に残る根強い家父長制にあると述べた。政権復帰直後タリバン政権の幹部はイスラム教の範囲内で女性の権利を認めると述べたが、新政権への女性の入閣はなく、女性の権利を要求するデモがカブールで起きた。

清末教授はタリバンだけが悪で暴力の元凶なのかと疑問を投げかけ、一方的な批判は表面的な見方だと指摘した。

旧ソビエトがアフガニスタンに侵攻し、ナジブラ傀儡政権が統治していた80年代に、隣国パキスタンに設立されたペシャワール難民キャンプを数回取材した。祖国を追われたアフガニスタン市民が巨大な難民キャンプを形成し、祖国では7つのイスラムゲリラがそれぞれの立場を主張しながら旧ソビエト軍と戦闘を繰り広げていた。


難民キャンプは日干し煉瓦を積み上げただけの粗末な家で多数の子供や年寄りもひしめいていた。一人の男が屋根の上にしゃがみこんでいる。なかなか動かないので通訳に何をしているのかと聞くと用を足しているという。家の中にはトイレもないことが分かった。

家の中を取材したいと家長らしき男性に許可を求めると意外にもあっさりと認めてくれた。
いきなり踏み込まないようにカメラマンに注文を付け、ゆっくり中に入った途端、女性と子供の叫び声と泣き声があふれた。(写真)撮影されることに慣れておらず、驚かしてしまったのだ。外出を控え、家にこもりがちな女性には社会的な触れ合いがないことをその時に実感した。カメラマンに急いで撮影し外に出るよう促した。

楽しみの少ないキャンプでは取材が珍しいのか、男性や子供に取り囲まれるが、やはり女性の姿は見えない。

その後、イスラムゲリラのうちパキスタンの神学校を中心に創設されたタリバンが政権を握ったが、2001年イスラムテロ組織アルカイダをかくまったとしてタリバン政権はアメリカに打倒された。欧米諸国の支援で樹立した政権を倒し、復権したタリバン政権だけが民主化や女性の権利をはく奪したというは表面的な見方だ。

30年以上前の難民キャップの取材からもタリバン政権樹立以前にすでに女性の権利が著しく阻害されていたことがわかる。清末教授の指摘通り歴史に着目して、多角的・批判的に検証することが必要だ。閣僚をはじめ女性の社会進出が少ない日本も教授の指摘が適用できそうだ。

《アジアの今昔・未来 直井謙二》前回  
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