1. HOME
  2. 記事・コラム一覧
  3. コラム
  4. 第616回 パスポートとアジア取材 直井謙二

記事・コラム一覧

第616回 パスポートとアジア取材 直井謙二

第616回 パスポートとアジア取材 直井謙二

パスポートとアジア取材

喜寿も過ぎ世間並みに断捨離をと本棚の片付けをしていたら、上の棚から使い古したパスポートがばらばらと落ちてきた。一部は散逸しているが、出てきた10冊ほどのパスポートの発行年号を見ると1985年から2001年までおよそ16年間で使用したものだ。(写真)

80年代90年代はパスポートの有効期限5年だったが、期限を待たず平均して1年半でパスポートを更新していることになる。海外取材が多く、有効期限前にはビザや入出国のスタンプを捺印するページが無くなってしまうからだ。特に80年代のパスポートは捺印するページが25ページと少なかった。捺印ページが無くなると大使館に出向き、増刷してページを増やしてもらう。事件や国際会議が頻発すると増刷ページもすぐにいっぱいになる。

一時期、合冊という手続きもあった。新たなパスポートと古いパスポートを特殊なひもで接続したものだ。分厚くなったパスポートは受験時代に利用した旺文社の「赤尾の豆単」を想像させる。合冊後は一度だけ増刷できるが、それでもページが無くなれば有効期限前でも書類をそろえて新たにパスポートを取得しなければならない。

第614回 直井先生.jpg

パスポートの更新のためだけに帰国することはできないので、大使館で手続きをすることになる。ほとんどのパスポートは駐在していたタイとフィリピンの日本大使館発行のものだ。

海外取材の機会が他の地域の特派員より多いことだけではないが、特にアジア特派員は更新の頻度が高い。高度経済成長前のアジア諸国は外国人在住者に厳しかった。外国人の不法就労や外貨の持ち出しを防ぎたいからだ。タイやフィリピンに進出し、地元の雇用や納税に貢献している各国の大企業を除いて、厳しい規制が布かれ、3か月ごとに出国し近隣の国で改めてビザを取得しなければならなかった。ビザ取得のための旅費で稼ぎが無くなり不法就労の意味がないことを狙っていたのだった。

緊急取材のときはビザを持っているかどうかが取材に影響するため、当面取材予定のない国のビザも念のため取得しておく。このため使われないビザも少なくなかった。

増刷などで大使館にパスポートを預けている期間が最も危険だった。この間に事件があれば、夜中でも領事部担当の職員に電話で頼み込み、領事部を開けでパスポートを戻してもらうことになる。

現在のパスポートは日本人の頻繁な渡航に配慮して有効期限は10年、ページ数は50ページとなっている。退職後は年に1度か2度海外旅行をする程度でほとんどのページが使われないうちに期限が来てしまうようになった。

《アジアの今昔・未来 直井謙二》前回
《アジアの今昔・未来 直井謙二》次回
《アジアの今昔・未来 直井謙二》の記事一覧

タグ

全部見る