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〔26〕1990年代半ばの中国から日本への絵はがき送付実験記 小牟田哲彦(作家)

〔26〕1990年代半ばの中国から日本への絵はがき送付実験記 小牟田哲彦(作家)

〔26〕1990年代半ばの中国から日本への絵はがき送付実験記

旅行時にスマホを持っていれば世界中どこにいても通信できるようになったのは、21世紀に入ってしばらく経った頃からだったように思う。それまでは、ひとたび海外旅行に出れば、日本へ緊急連絡をするには高額な国際電話を利用するしかなかったし、その国際電話も、国によってはかけられる場所が限られていた。だから、1990年代半ば頃に大学生として春や夏の長期休暇に1ヵ月以上の海外旅行へ出かけると、日本にいる家族とはその間ほぼ音信不通状態になるのが当たり前だった。

その頃の私は、旅先からせっせと絵はがきを書いて、日本の自宅宛て、それも自分の宛名にして送ることが多かった。フィルムを消費する写真は現在のデジカメのように気軽に撮影するわけにはいかなかったし、土産物を買えば帰国時まで重い荷物として持ち歩かなければならない。その点、絵はがきは現地で廉価に購入できて、当該国限定の切手を貼って自分宛てに投函すれば、万国郵便条約に基づいて自動的に日本まで運ばれる。そして、留守中の家族にも、とりあえず私が現地で無事にいるらしいことは伝わる。ご当地限定の土産物としては、現代でも、これほど手軽で便利なものは他にないと思う。

ところが、1996年に初めて中国へ渡り、シルクロードの各都市や旧満洲を旅したとき、約40日間、日記のように1日1枚書いて各地で投函した絵はがきのうち、約3分の1は日本へ届かなかった。「都市部で出せば問題ないが、辺境から投函すると届きにくい」などというバックパッカー特有の都市伝説(?)も聞いたことがあるが、シルクロードのオアシス都市のポストに投函したものが届いたのに、北京で出したものが届かなかったりもした。

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「確実に日本へ届くようにするには、中央郵便局の窓口へ行って、その場で切手を買って持参した絵はがきにすぐ貼って、その場で消印を押してもらうのを見届けるとよい」というのが、中国ではなくアジアの他の国を旅したベテラン・バックパッカーのアドバイスだった。ただ、中央郵便局は場所が限られ、営業時間は日中の観光に適した時間帯と重複していていちいち訪ねるのが面倒だし、投函に手間がかかるようでは「手軽で便利」な自分用土産としての特質を損なってしまう。

 中国の観光客向け絵はがきの販売形態にも問題があった。欧米諸国や東南アジア、南アジアの多くの国々の観光地では、絵はがきは1枚単位で買える。一方、当時の中国では10枚くらいがまとめて同封されているケース入り(画像参照)が主流だった。日本でもその頃は同様の売り方が多数派だったので大きなことは言えないのだが、これだと気に入ったデザインのものだけを選んで買うことができず、使わない分は結局持ち歩くので、私の購入意図と合わない。

 かくして、その後は中国から絵はがきを自分宛てに出すということはしなくなってしまった。そのうちに通信手段はどんどん発達・変化して、今や風光明媚な現地の様子をスマホで撮影して、日本を含む世界中へ瞬時に画像を送れるようになっている。今、中国で絵はがきを買って手紙を書いて中央郵便局の窓口へ持っていき、「日本までの航空便でお願いします」と言って切手を買い求めようとしたら、窓口の局員は手慣れた様子でスムーズに対応してくれるだろうか。


《100年のアジア旅行 小牟田哲彦》前回

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