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第31回 ベトナム現代建築試論 2 竹森紘臣

第31回 ベトナム現代建築試論 2 竹森紘臣

第31回 ベトナム現代建築試論 2

 前回の記事で紹介したWind & Water Caféと同時期の2012年に、ハノイでも当時の北部の他の建築とは一線を画す建築が生み出されている。『Gentle House』と名付けられた、Le Luong Ngoc(レー・ルオン・ゴップ)氏が率いるV-Architectureの作品である。(写真1)前回紹介したカフェは南部の開放的な空間であった。Gentle Houseはベトナム北部でありベトナムの首都、ハノイの郊外に建てられたNgoc氏自身の住居兼事務所である。北部は南部と違って冬があり、湿度も高く雨も多い。日本人から見ると南部の建築はリゾートにあるそれのように感じられるかもしれない。一方、北部の建築は年中開放的な建築というわけにもいかないため、ベトナムという南国の割には閉鎖的に思うだろう。




 Gentle Houseは2階建ての建物で1階が住居、2階が事務所になっている。真四角のかたちをしていて、1階は特注のテラコッタ・ブリックの柱と壁の上にコンクリートの構造の床を載せている。その上の屋根は傘のような細い鉄骨の骨組みで掛けられているため、2階の四方には柱が一つもない開放性のある空間になっている。Ngoc氏はこの自らの住宅兼事務所を実験のための建物としている。2階の外壁廻りの自然換気システムや日よけの建具、屋根に水を流すことによって強い日差しからの遮熱を行うなどして、自身の他さの作品にもさまざまに応用を行っている。Ngoc氏の事務所の「V-Architecture」のVはVietnamのVであり、Vernacular(バナキュラー)のVである。彼は一貫してベトナムの歴史や文化に向き合いながら、ベトナムにおけるサスティナブルな建築を模索し続けている。



 彼のひとつの到達点ともいえる作品が最近Gentle Houseの近くに建てられた彼の新しいオフィスではないだろうか。(写真2)この新しい事務所はすべて廃材を材料としてセルフビルドで建てられている。柱の鉄骨は新築するために取り壊した既存の建物のものを集めた。屋根を支える木製トラスは使用済みのコンクリートの型枠から製作している。現在世界的に問題になっている廃棄物はベトナムでも大きな課題である。ゴミは分別もされないし、焼却などのゴミ処理施設の整備も遅れている。不法に投棄されるものもあるし、ゴミを引き取って生業としている地域もあり、そのためにゴミがあふれて居住ができなくなってしまった地域さえある。この新しいオフィスはその根が深く過激で急進的な問題に体当たりで挑んでいる作品である。驚かされたのはGentle Houseと新しい事務所とのギャップである。この7年の間に変化するベトナムの社会をそのまま体現してしまったような建築だ。しかし写真で見ると混沌とした印象を受けるかもしれないが、中に入ると決してバラックのような雰囲気を感じることはない。(写真3)




 急激な経済発展の最中にある現在のベトナムでは商業的な案件がおおく経済優先が求められることがおおい中で、このような社会の問題に真摯に立ち向かいながらその質を守る建築がもっと増えればと思うし、自分自身もそのような建築により一層取り組んでいきたい。




 
写真1枚目:Gentle House 外観(ハノイ、ベトナム)
写真2枚目:V-Architecture 新オフィス 外観(ハノイ、ベトナム)
写真3枚目:V-Architecture 新オフィス 内観(ハノイ、ベトナム)
写真4枚目:V-Architecture(ハノイ、ベトナム)

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