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戦争の影響とデフレ、内憂外患の中国、3中全会で有効な経済政策が打ち出せるのか(上) 日暮高則

戦争の影響とデフレ、内憂外患の中国、3中全会で有効な経済政策が打ち出せるのか(上) 日暮高則

戦争の影響とデフレ、内憂外患の中国、3中全会で有効な経済政策が打ち出せるのか(上)

ウクライナ戦争や中東ガザ地区の戦闘、揺れ動く国際情勢が中国経済に少なからず影響を与えている。中国はロシアやガザ支配の武装組織「ハマス」と表面的に良好な関係を保っているが、戦争、戦闘には深入りしていない。ロシアのエネルギーを安く買えるメリットがある半面、イエメンの反政府武装勢力「フーシ」による紅海航行船舶への攻撃によって海上交通、貿易に支障を来すデメリットも被っている。不動産バブル崩壊を引き金にしたデフレ傾向が依然収まりを見せない中、バイデン米政権は、先端半導体、電子機器の輸出停止などで一段と対中圧力を強めている。中国共産党は昨年秋に恒例の3中全会が開けなかったが、それは経済不振に対する有効な対策、方向性が見いだせなかったためと言われる。それでも党中央は今年5月早々、「遅れていた3中全会を7月に開催する」と宣言した。景気回復のための有効な対策が出てくるのか、世界中が関心を寄せている。

<ガザ、ウクライナ戦争の影響>
昨年秋にハマスの武装部隊がイスラエル領内を襲撃したことで、パレスチナ人が住むガザ地区で本格的な戦闘が始まった。紅海入り口にある国イエメンの反政府武装組織「フーシ」はイスラム教シーア派で、イランとの関係が密で支援も受けているが、ガザ戦争が始まると、同じイスラム教内で対立していたスンニ派のハマスを支援するようになった。フーシは、紅海を通る米英系、イスラエル系の船舶にドローン、ミサイル攻撃することを宣言した。ただ、船舶は外側から船籍や真の所有国、企業を厳密に識別できるわけではなく、誤爆も生じやすい。そのため、通航船舶は一様に危険にさらされるが、世界第2の経済大国で紅海の利用頻度の高い中国貨物船もその危険性を免れ得ない。

紅海とスエズ運河はインド洋と地中海を結び、アジア-欧州間の最短ルートだ。フーシの攻撃でこのルートが使えなくなると、アジア、オセアニア諸国の船舶は、インド洋からアフリカ大陸最南端の喜望峰を回り大西洋に出て欧州に向かわなくてはならない。大航海時代への“先祖返り”だ。米国物流会社の情報によれば、今年6月現在、コンテナ船の95%がスエズ運河経由を止めて喜望峰回りを選択しているという。シンガポール-オランダ・ロッテルダム間で見た場合、喜望峰回りだとルートが1.25倍ほど長くなり、しかもアフリカ大陸の先は強い偏西風が吹くため、燃費がかさむというデメリットもある。このため、中国は船舶利用の喜望峰回りより、ユーラシア大陸地続きという利点を再認識し、陸路を使う方向に傾いている。

中国国内メディアによれば、内モンゴル自治区から欧州方面に向かうルートは二聯浩特からモンゴル経由でロシアに入るのと、満州里から直接ロシアに入る2つがあるが、今年1-5月の間、中国から国境を越えた貨物列車の数は3379本、前年同月比4.97%増になったという。運送された貨物数は約32万6400個で、同7.35%増。このうち5月だけを見ると列車は1724本で、前年同月比14%増、貨物数は約18万6000個で同13%増と大幅にアップした。月別の運送量としてはこの5月が過去最高になったという。中国の鉄路集団によれば、重量では5月が3億3700万トン、前年同月比2.8%増。コンテナに限れば7095万トンで、同20%の増。この運送量の増加は明らかに紅海、スエズ運河通航困難の影響を受けたことは間違いない。

ウクライナ戦争の影響はどうか。5月にプーチン大統領が訪中して習近平国家主席と会談して中ロの蜜月を演出した。確かに昨年2023年の中国とロシアの貿易総額を見ると、前年比26.3%増の2401億ドル。過去最高だった22年の1903億ドルを更新し、初めて2000億ドルを突破した。ロシアは欧米との通商が冷え込む中、中国への経済依存を強めている。ただ内実を見ると、エネルギー輸出で西側顧客を失ったロシアの足元を見る形で、中国が安く買いたたいている様相が垣間見える。一説には、「ロシア産原油はサウジアラビア産の半額、米国産の2割安」との情報もある。中国は有利な状況を奇貨としてロシア産原油輸入を大幅に増やしたため、23年の原油輸入量はロシア産がサウジ産を上回った。

今、ロシア経済は中国やインドに頼らざるを得ない。という視角で見ると、ウクライナ戦争は中国経済には大きなメリットをもたらしていると言えよう。中ロ間には、モンゴル国経由で「シベリアの力2」という天然ガスパイプラインが計画されている。これは、西側顧客を失ったロシアにとって安定顧客を得る大きなツールになるはずだったが、これまでのところ計画実現に向けての進展はない。英紙「フィナンシャル・タイムズ」によれば、供給ガスの価格設定と受け取り量に関して中国側が無理な要求を突き付けているからだという。取引価格については、中国側が「政府の補助金が付いているロシアの国内価格並みにしろ」と国際価格を無視した廉価を要求。入手予定のガス量も、建設を計画しているパイプラインの輸送能力をフル回転しなくても済む量にとどめるよう提案しているという。

ロシアにとっては以前、EUが自国産エネルギーの安定的な顧客だった。バルト海を這う「ノルドストリーム」というパイプラインがあり、双方ウィンウィンの関係にあった。ところが、ウクライナ侵攻による対ロ制裁でEU側はガス受け入れを拒否。それによって、自らも価格上昇の苦境の中にあるが、売り先を閉じられたロシアももっと困った。となれば、中国が強気に出るのも無理もない。中国は戦時下にあるロシアに同情するどころか、逆に足元を見てあくまで冷たい。無理な要求を突きつけたため、中ロ間のガスパイプライン敷設交渉は暗礁に乗り上げている。中国にしてみれば、今、ロシア産原油を安く購入できるのでガスライン建設を急ぐ必要がないという判断があろう。こうした姿勢にロシア側ははらわたが煮えくり返る思いなのであろうが、プーチン大統領も欧米への手前中ロ蜜月を演出しなければならず、辛い立場に立たされている。

米系華文ニュースによれば、ロシアの制裁逃れを手助けする第3国の金融機関にも米国は制裁を課すと宣言したため、国有銀行の一つ「中国工商銀行」はロシア貿易での決算で人民元使用を避けているという。これによって、両国貿易額の8割の決算が滞っているが、これで困っているのもやはりロシア側だ。ロシアは今、武器の増産が迫られているが、その生産に使われる半導体など電子部品の購入に支障を来している。国内生産ができないので、ミサイル、ドローンなどは、イランや北朝鮮からの輸入に頼らざるを得ない状態になっている。

また、ウクライナのメディアによれば、中国の大手電子通販企業「アリババ」は越境ECアプリ「アリエクスプレス(全球速売通)」の物販で、ロシア人顧客に対しキーカレンシーを要求、ルーブルの受け取りを拒否しているという。ロシアはこの越境ECを使って武器生産に必要な部品を大量購入しているようで、ウクライナや米国はその流れをつかんでおり、中国企業に警告していた。このため、アリババは今後の欧米の報復を恐れて、事実上ロシア向け販売に制限を設けたのだ。

さらに、中国の監視機器システム企業「ハイクビジョン(海康威視)」もロシアでの業務を最近停止していることが分かった。同社は防犯カメラ製造のビッグメーカーとして日本でもかなりの顧客を持っている。ただ、ロシアでは盗聴装置が普及しており、あらゆるオフィスに仕掛けられているとされる。そのため、メンテナンスなどで同社撤退の影響は計り知れない。ハイクビジョンのようなセキュリティー機器の企業まで対ロシア関係で腰を引いているのは、やはり米国が圧力を強めているからであろう。西側諸国にも販路を開拓しようとしているため、ロシア一辺倒の企業と見られることを懸念しているのだ。

 

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