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第306回 中国の都市化政策で生まれる新たな農村 直井謙二

第306回 中国の都市化政策で生まれる新たな農村 直井謙二

第306回 中国の都市化政策で生まれる新たな農村

5年ほど前、中国共産党の地方の幹部の紹介で、新農村政策によって豊かになったという河南省・鄭州郊外の村を訪ねた。公民館で新農村政策等について説明の後、案内された農家は50坪のほどの広さの家で電化製品が並び、こぎれいな服を着た主婦はこの政策により生活が向上したと話していた。地方活性化を狙い、都市開発を進めたい地方政府が農民から耕作権を得るために補助金を払う。若い農業の担い手は農民工として都会に流れている。農場の見学もなく、農業経験もなさそうな手も荒れていない幹部の説明が続く。地方の幹部の懐を肥やす新農村政策が頭から離れず説明もうわの空で聞いていた。

今回は江西省の南昌市郊外の前洲村を訪ねた。南昌市郊外の農村はこれまで見てきた農家とは趣を異にしていた。近代的な有機農業で都市富裕層向けの高級野菜を有機栽培し、利益を上げている。企業化された大農場は機械化され、生産性も高そうだ。ビニールハウスの中には配管が走り、土を使わない野菜作りも行われていた。南昌市の高層マンションに住む富裕層がベランダなどで園芸を楽しむための教室も開かれていて園芸用品や苗も販売されていた。特産物を展示即売するコーナーには野菜のほかに村で収穫されたブルーベリーも置かれていた。前洲村の概要が書かれた看板によれば、農家一戸当たりの収入は10,596万元、およそ180万円だ。

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農民の寄付で建てられたという集会所を訪ねた。子供たちが走り回り高齢者はおしゃべりに余念がない。集会所には5世紀の文学者でこの地にゆかりの陶淵明の巨大な肖像画が飾られ、その前で女性たちによる民謡と踊りが披露された。(写真)陶淵明は官吏を嫌い隠遁し詩を愛した「田園詩人」だったという。豊かな自然に恵まれ、踊り手の表情は明るく、鄭州で見たモデル地区の農民のこわばった表情とは対照的だった。集会所の出口には集会所の建設に喜捨した人たちの名前が刻まれた石板が置かれていたが、ほぼ100%苗字が「陶」だった。

今回の訪中前に霞山会の午餐会で拝聴したキヤノングローバル研究所の瀬口清之研究主幹の講演を思い出した。瀬口氏は中国発のバブル崩壊の可能性は低いとしたうえで、中国は第三次産業の発展と都市化推進で貧富の格差の是正や都市の生産性向上を目指していると指摘していた。前洲村はモデル地区であり中国全土で都市化と新農村政策が成功しているとは思えないが、中国の農業が今後目指す方向を示しているようだ。

写真1:陶淵明像の前で踊る農民

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