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第5回 「北京の渋谷」に建つ高層ショッピングモール:西単 大悦城 東福大輔

第5回 「北京の渋谷」に建つ高層ショッピングモール:西単 大悦城 東福大輔

第5回 「北京の渋谷」に建つ高層ショッピングモール:西単 大悦城

北京の西側に「西単(シーダン)」という場所がある。ここは、沢山のショップがあり、ガイドブックには「北京の渋谷」と表現されている。同様に「北京の銀座」と呼ばれ、高級店が立ち並ぶ王府井と比べると、比較的安価なファッションが集積し、街路は着飾った若者たちで溢れかえっている。その意味では、「渋谷」の比喩は適当だ。そしてその中心で、ひときわ目立つ巨大なビルが「大悦城」 。食品を中心としたコングロマリット「中糧集団」の不動産部門が運営する商業ビルだ。今でこそ、北京の東部の朝陽区はじめとして、天津、上海、瀋陽、成都など、中国各地にモールを展開している大悦城だが、これはその一号店である。

資料によると、オープンは2007年、モール部分の延床面積は11.5万平方メートル、オフィスやホテルなどの業態を含めた総延床面積は20.5万平方メートルとある。設計はシンガポールCPG設計公司となっているが、聞いたことのない社名である。商業デザインや外装設計などに海外のコンサルを引き入れつつ、シンガポールの華僑系の会社がそれらを取りまとめた、というのが実際の所ではないか。規模については、専門家でなければピンと来ないかもしれない。新宿副都心に林立する高層ビル一本が大体15万平方メートルである事を知れば、如何に大きなショッピング・モールかが分かってもらえると思う。あれらの高層ビルのオフィスをぶち抜いた面積と、ほぼ同規模の売場が中に入っているということだ。

当たり前のことだが、商業施設の設計は、できるだけ客に買い物してもらうことに主眼が置かれている。そのため、客の建物内での滞留時間をできるだけ引き伸ばし、目的外の店にも興味を持ってもらえるように、できればそこで買い物をしてもらえるように設計する。たとえば、似たようなターゲットの店舗を同じフロアに集めたり、大きな吹き抜けを設けて別のフロアのテナントが見渡せるように作ったり、客の行きにくいところに人気の大型テナントを誘致して客を引き寄せるなど、ありとあらゆる工夫を凝らす。まさに「売るための機械」の設計だ。ただし、それだけの事をやったとしても、地上4階の高さがせいぜいだ。レストラン街とシネマ・コンプレックスを設けたとしても、5階が限度だろう。それ以上の高さになると、上層階まで客が行き渡らないのである。

だが、この「大悦城」の売場は、地下2階、地上10階だ。商業施設計画のセオリーから見てもメチャクチャな規模であり、それを可能にしているのが「飛天梯」と名付けられた「アジア最長の」エスカレーターである(中国の施主は、「⚪︎⚪︎最大」が大好きだ)。1階のエントランス・ホールに乗り口があり、よく考えずに乗ってしまうと、あれよあれよと6階まで連れて行かれてしまう。下階に降りてゆくためのエスカレーターは違う場所にあり、これらの配置も工夫されていて沢山の店の前を歩かされる。日本人から見ると少々エゲツなく感じるほどに客の滞留時間を延ばすような計画となっていて、建物から出ようと下りエスカレーターを探しながら、ついつい「行きはヨイヨイ、帰りは怖い」というフレーズを思い出してしまう。

考えてみると、このような計画は、中国人の気質にあっているのかもしれない。北京人が飲食するとき、外国人のように店の「ハシゴ」をせず、食事も、「呑み」も、一つの店で済ましてしまう。もともと、滞留時間が長いのだ。もちろん、地域差もあるだろうが、少なくとも北京では、人々は買い物も「ワン・ストップ」(一箇所で様々なサービスが受けられる場所)で済ます、そんな消費行動をとっているのかもしれない。


写真1枚目:「北京の渋谷」に建つ大悦城
写真2枚目:内部を貫く巨大エスカレーター「飛天梯」map:<西単 大悦城>
北京市西城区。地下鉄1号線、4号線「西単」駅下車、A出口から徒歩5分


 

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