第249回 恩師の書庫の整理 伊藤努

第249回 恩師の書庫の整理
大学時代のゼミの恩師が昨年2月に急逝されてから間もなく1年となる。今年のお正月はまだ先生の喪中ということで、毎年恒例の先生のご自宅での新年会は取りやめとなったが、その代わりということで1月下旬に、自宅にある大きな書庫の3回目の片付け・整理を兼ねて、片付け作業&新年会が行われ、多くのゼミ同窓が集まった。
都内板橋区の閑静な住宅街にあるN先生の書庫は、長年にわたる現代中国論や国際関係論など精力的な学問研究、著作・論文などの執筆の神聖な仕事場だったということで、膨大な書籍や専門学術誌、新聞記事の切り抜きのファイル類が残された。正確な数は分からないが、3回にわたる書庫の整理に毎回、半日がかりで10人前後の教え子が従事し、ようやく片付くめどが付いたということで、どの程度の分量かはおおよその見当はつけていただけるのではないか。一言でいうと、膨大な数だったというのが実感である。
ご家族やN先生の相談役でもあった教え子有志の意向で、貴重な書籍の大半は、先生が学長を務めていた秋田にある大学の図書館に引き取られることになり、現代中国研究や国際関係論を学ぶ学生たちに活用されることになるだろう。筆者のゼミ先輩で、秋田の大学で教授兼図書館長を務めているKさんは、ダンボール300箱以上の貴重な研究書を譲り受けるので、先生の名を冠したコーナーをぜひつくりたいと話していた。
書庫の片付け作業を行った教え子のほとんどが大学の教師、ジャーナリストといった面々で、大学卒業・大学院修了後も何らかの形で先生の長年の研究の恩恵を受けており、書籍などの整理をしながら、興味ある貴重な研究書を手にすると、ページをめくって目を通してしまうことがしばしばだった。予想以上に時間がとられたのは、とても機械的な片付け、整理というわけにはいかなかったのも大きな理由である。
先生は生前、著作だけで100冊以上(!)の書籍・研究書を刊行し、雑誌や新聞に掲載される論文、評論なども数え切れぬほど執筆されたが、それだけの著述活動を続けるには、これほど膨大な研究資料が必要だったということだろう。
N先生はこのように学問の研究者としても偉大だったが、先生をよく知る前記のK先輩が回想するようにすばらしい教育者、大学経営者、芸術(特に音楽と絵画)の愛好家でもあった。教育者の一面を語るのが、先生が50年近く前に母校に国際関係論ゼミを立ち上げて以来、ほぼ毎年発行してきたゼミ誌を28号まで出したことだ。先生の書庫の一角には、第1号から第27号までのゼミ誌がきちんと保存してあり、昨年5月に刊行した最終の第28号は先生の追悼特別号となった。