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第248回 ベトナムのドイモイ政策の効果 直井謙二

第248回 ベトナムのドイモイ政策の効果 直井謙二

第248回 ベトナムのドイモイ政策の効果

中国同様、ベトナムも社会主義下の市場経済政策「ドイモイ」を導入し高い経済成長を遂げている。効果を初めて垣間見たのはドイモイが導入されて5年ほど経った1990年代初めだ。ドイモイ前、外国人が宿泊できるのはフランスが建設した「トンニャット」ホテルだけだった。ホテルには国際電話がかけられるブースがあり、東京との連絡が可能だったが、回線は香港を経由する1回線のみで香港とベトナム間は無線だった。申し込んでから2時間ほど待たされ、電話の用件を忘れたこともある。

ホテルの食堂の思い出も忘れられない。広い食堂に客はフランス人の中年女性ただ一人。コックもウエイトレスも隅の椅子に座り込んでおしゃべりに余念がない。その食堂に筆者が入っていくと視線は明らかに歓迎していない。働いても働かなくても給料が同じなら客は少ない方がうれしいのだ。中年のおばちゃんがやってきて、メニューを筆者のテーブルに放り投げた。メニューがよく分からないので牛肉入りのうどんを注文した。注文して20分も経つのに牛肉入りのうどんは運ばれてこない。退屈なので周りを眺めていると猫のような巨大なネズミがうろついている。思わず立ち上がり日本語で「ネズミだ」と叫んでしまった。さっきの中年のおばちゃんがやってきて筆者の指の刺す方向をながめ、「そうよ。ネズミよ。あんたネズミも知らないの」と言わんばかりの視線を投げかけそそくさとおしゃべりの中に戻って行った。

第248回 直井.jpg

フランス人の中年女性の席にスイカが運ばれてきた。スイカはまったく熟れておらず、なかみは真っ白。フランス人中年女性が文句をつけ、フランスとベトナムのおばちゃん同士のバトルが始まった。筆者はたいていの場合アジア人を応援するが、この時ばかりは「フランス頑張れ」と心の中で叫んでいた。

それから5年、トンニャットホテルがフランスの経営に変わり、ホテルの内装が一変した。
値段も高そうだったが、懐かしさにひかれ食堂に入ってみた。腕にナプキンをかけたウエイトレスがさっと椅子を引き、メニューを差し出す。「アペタイザーからご注文をうかがいます」という声の方を見て飛び上がった。

あのメニューを投げてよこしたおばちゃんだった。思わず「私のこと憶えていますか」と聞いてしまった。「お客様の事は良く覚えています」という。「ずいぶん前と違いますね」とたたみかけるとおばちゃんは「はい、ドイモイですから」とすまして答えた。


写真1:80年代のハノイの繁華街

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