1. HOME
  2. 記事・コラム一覧
  3. コラム
  4. 第217回 アフガンでの平和構築は可能か 伊藤努

記事・コラム一覧

第217回 アフガンでの平和構築は可能か 伊藤努

第217回 アフガンでの平和構築は可能か 伊藤努

第217回 アフガンでの平和構築は可能か

1919年に英保護領からの独立を果たしたアフガニスタンの歴史を紐解くと、1970年代前半までの王政時代が同国の近現代史の中では、比較的平和で安定した良き時代だった。しかし、この国がその後、戦乱に見舞われ続けてしまう背景には、多数派のパシュトゥン人をはじめ、タジク人、ハザラ人、ウズベク人などの少数民族が混在する多民族国家であることに加え、イラン、パキスタン、かつては北方のソ連など周辺国が影響力を強めようと干渉を繰り返してきた歴史がある。アフガンが地勢学上、戦略的要衝の地にあるためでもある。

外国勢力の干渉の例を一つ挙げれば、隣国パキスタンの軍情報機関とアフガンのイスラム原理主義勢力タリバンの緊密な関係がある。かつては、政権を担ったほどの組織であるタリバンの実態は今も厚いベールに包まれ、秘密の部分が多いが、最高指導者のムハマド・オマル師がパキスタン北西部の部族地域といわれる某所に拠点を置いていると伝えられるのも、同国権力層との深い関係があればこそだろう。

米軍などアフガン駐留の外国軍部隊や政府軍はタリバンの掃討作戦で手を焼いているが、アフガンの安定化、復興で米国と協力関係にあるパキスタン政府が軍とも一体となって本腰を入れてタリバン掃討に手を貸せば、アフガンでの軍事作戦は今とは違う展開をたどっていたのではないか。パキスタン軍情報機関が持っているタリバンに関する膨大な情報が米軍などに共有されていれば、タリバンの巻き返しを許すことはなかったであろう。

当初は組織壊滅が容易だと思われたタリバンが命脈を保ち、米軍など外国軍撤退後の復権を虎視眈々と狙うことができている主因としては、アフガンにおける反米、反外国勢力の機運が高いことに加え、カルザイ政権が国民の幅広い支持を得ていないことがある。もともと、中央政府に対する帰属意識が希薄なこの国では、部族や村落単位での規範に従う傾向が強く、タリバンは国家統治の脆弱な部分を浸食する形で再び勢力を伸ばしている。

タリバンの掃討が軍事作戦で不可能と判断し始めた米国は、和平の道を模索しているが、地方で再び勢力を伸長させているタリバン指導部は強気の姿勢に転じ、和平交渉を先延ばしするのが得策とみているようだ。アフガン、パキスタンのかつての宗主国で、地域の戦略的事情に詳しい英国のキャメロン首相が今年2月、両国首脳を招いてアフガン和平に向けた主導権発揮に意欲を見せた。タリバンとの交渉入りを含めたアフガンの和平実現とそれに続く国家の安定、再建のためにはパキスタンの協力取り付けが欠かせないとの判断だ。

タリバンもかつての政権担当時代の国民離反の失政を踏まえ、単独での実権掌握は可能とはみていまい。アフガンの一政治勢力として国民和解に応じてくる可能性はあり、そのための和平交渉の環境づくりが水面下で進んでいる。米軍主導のアフガン軍事介入という大きな代償を払って、舞台は大きく一回りしようとしている。戦乱に終止符を打つこと。戦火が続いたカンボジアで実現できた平和構築がアフガンでできないとは思わない。

タグ

全部見る