第215回 戦乱に覆われたアフガン現代史 伊藤努

第215回 戦乱に覆われたアフガン現代史
2001年9月の米同時テロ後、事件の首謀者でアルカイダ指導者のウサマ・ビンラディン容疑者を匿ったとして米国がアフガニスタンのタリバン政権打倒の軍事作戦に踏み切ってから12年近くがたつ。米軍の圧倒的軍事力でイスラム原理主義勢力のタリバンはあっけなく首都カブールから敗走したが、アフガンがその後、国際社会の強い支援を受けながら、安定や復興に程遠いのは、21世紀型の対テロ戦争を考える上で重要な問題を投げ掛けているように思われる。
筆者は国際ニュース報道畑を歩み、断続的ではありながらも、30年余りにわたってアフガン情勢の推移を見詰めてきた。取材して、原稿を何本も書いてきた。1979年末の当時のソ連による電撃的なアフガン侵攻とその後の駐留、平定作戦の失敗による撤退。ソ連軍駐留時代から続くアフガンの各政治勢力による内戦、その中から台頭してきたタリバン政権の誕生、その下での厳格なイスラム法に基づく統治とそれに対する国民の反発……。
アフガン現代史の30年を簡単に振り返ると、上記のような説明となるが、1970年代後半以降は平和の時代はなく、戦乱に次ぐ戦乱の歳月だった。それに終止符を打つはずだった2001年以降の米軍主導の外国軍部隊のアフガン展開も結局は、撤退に追い込まれた旧ソ連軍の失敗の二の舞いとなりそうな雲行きだ。
アフガンでは、タリバン政権打倒後に国際社会が擁立したカルザイ大統領が自由選挙で当選し、現在2期目を務めている。来年春に実施予定の選挙で新しい大統領が誕生するが、同国に駐留する10万人を超える米軍など北大西洋条約機構(NATO)の主力部隊はその年の末を期限に撤収することになっている。
アフガンでは今も、勢力地盤の南部などでゲリラ活動を続けるタリバンが反転攻勢の機会をうかがっており、米軍など国際部隊による治安改善は一進一退を続けているのが実情だ。純粋に軍事作戦の観点から見れば、とても撤退どころではないのだが、オバマ米大統領の政治判断や部隊を派遣している欧州諸国における厭戦機運、財政事情などが複雑に絡み合って、2014年末までの戦闘部隊の撤収が決まった経緯がある。
米軍などは撤収と引き換えに、アフガンの国軍と治安部隊に治安権限を委譲する一方、アフガン部隊の育成と訓練強化を支援することで自立を促す戦略だ。アフガンの中央政府がしっかりしていれば、このもくろみも功を奏すだろうが、それを期待されたカルザイ政権は汚職にまみれ、地方軍閥の横やりなどもあって求心力は低下し、指導力発揮には程遠かった。
米軍などが撤退すれば、タリバンが再び実権を握るのではないかとの懸念が高まる中、アフガン平和と安定を取り戻すには何が必要なのか。次回はこの問題を考えたい。