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第119回 枯れ葉剤被害取材で見えた真実 伊藤努

第119回 枯れ葉剤被害取材で見えた真実 伊藤努

第119回 枯れ葉剤被害取材で見えた真実

前回に続き、報道写真家、中村梧郎さん(70)のことを取り上げたい。

ベトナム戦争終結の翌年の1976年、統一ベトナム取材の企画を立てて北から南までを車で取材したカメラマンの中村さんは同国最南端のカマウ岬で、周辺のジャングルがすべて枯れている光景を偶然目にした。森が枯れている風景など、戦争写真としては迫力がないと思いつつも、この土地では生まれてくる子供が障害を持っていることを知り、驚愕する。ベトナム戦争での枯れ葉剤被害を初めて世界に伝える特大スクープとなった。

米軍が散布した枯れ葉剤の被害を目の当たりにしたため、とことん追及するハラを決めた中村さんがその後、ベトナムを訪れた回数は50回近く、取材した被害者は延べ数百人に上る。枯れ葉剤に含まれる有毒物質ダイオキシンと障害を持った赤ちゃんとの因果関係は素人の目にも明らかだが、米政府も化学メーカーも人体に有害であることを知りながら、事実を隠し続けた。

「目的達成のため、当面の利益のため、権力はうそをつくものだ。メディアが暴かない限り、事実は隠され続ける」--。ジャーナリストの中村氏が長年の取材を通じ、骨身に染みて知った真実の言葉に違いない。

自宅書斎で資料調査などに忙しい中村梧郎氏

広島、長崎への原爆投下をはじめ、ベトナム戦争での枯れ葉剤散布も、軍事技術の開発の結果、米国が手にした最も効率の良い大量虐殺のための兵器の使用ということで共通する。中村さんはさらに、「戦争が起きるたびに殺人システムは変化し、兵器の発達は本当に恐ろしい」と話し、近年の例としてボスニア紛争やイラク戦争で使われた劣化ウラン弾を挙げた。「人体に有害な影響をもたらす化学物質は兵器として絶対に使ってはならない」という言葉には怒りがにじむ。

科学技術の恩恵を受けて便利な生活を享受しているわたしたちはこの時代にどう向き合えばいいのか。こちらのそんな素朴な問い掛けに対して、「江戸時代に帰れとは言わないが、利益至上主義を排除して安全を確認しながら科学技術を利用すればいい」という答えが返ってきた。福島原発の重大事故にしても、科学者の正しい予言をすべて無視した結果だと付け加えた。

中村さんは福島原発事故の取材で被災地を回っている。現場にこだわる姿勢はカメラマンの習性なのだろう。「見る人が悲しくなったり、怖がったりする写真は載せない」という最近のメディアの風潮に異を唱え、「事実は事実として掲載するべきだ」と訴える硬骨の人でもあった。

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