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第55回 夫の遺志継ぐ元大使夫人 伊藤努

第55回 夫の遺志継ぐ元大使夫人 伊藤努

第55回 夫の遺志継ぐ元大使夫人

やや旧聞だが、今年の旧正月(テト)を前にした2月半ばに在京のベトナム大使館で行われた新年の祝いの会に招かれ、米麺スープのフォーや春巻きなどベトナム料理をご馳走になった。その味もさることながら、忘れられない晩になりそうなのは、あるご婦人とお会いしたからだ。股野儷子(またの・れいこ)さんで、3年前に他界したご主人はベトナムやスウェーデンの大使などを歴任された景親(かげちか)氏。股野さんは元大使夫人ということになるが、パーティー会場で知人を介して互いに自己紹介をしているうちに、上品な言葉使いや取り上げる話題などから、お人柄が自然とにじみ出てきたように感じた。ご本人は帰国して生活している時などを利用して、英語教育に長年携わってきた教育者でもある。

股野さんとひとしきり会話を交わした後、近く出版されるという日本語の絵本(2巻)の英語版(2巻)の説明を受けた。長年の友人という米国人女性、M・Bさん(元駐日米公使夫人)の協力を得て英語に訳したのは『「和」の行事えほん』(髙野紀子著、あすなろ書房刊)で、家族みんなが日本の伝統行事が楽しめる絵本となっている。「春と夏の巻」「秋と冬の巻」の2巻があり、「和の暦」をくくりながら1年間の伝統行事や祝い事にまつわる疑問が解ける趣向だ。

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股野儷子さんと『「和」の行事えほん』(英語版)

海外でも国内でも日本の伝統や文化、生活習慣を外国の友人らに紹介する機会があっても、英語で説明するとなると、意外に難しい。「七夕の由来は?」「七五三の意味は?」と聞かれても、簡単には答えられまい。股野さんは「来年度からの小学校での外国語活動(英語)の必修化などに伴い、担当の先生や外国語指導助手(ALT)の日本文化紹介に役立ててもらうだけでなく、海外駐在の日本人家族、日本語を学ぶ多くの外国人にもぜひ活用してほしい」と話していた。

股野さんは筆者がメディアの人間ということで、出版する絵本2巻の英語版の書評、あるいは紹介記事を書いてほしいと遠慮がちに頼んできた。外国暮らしをしていた時に、このような英語のいい教科書がなくて不便を感じた経験が少なくない筆者が微力ながら協力を約束したのは、股野さんらのすばらしいお仕事をぜひとも広く紹介したいと思ったからだ。

ご主人の景親さんは外務省退官後は京都にある私立女子大で教壇に立ち、国際人育成に役立つ英語教育や異文化理解を学生らに教授していたという。股野さんが今回の英訳本の出版を引き受けた理由の1つは「亡夫の遺志を継ぐ仕事のように思えたからです」と、後日届いた手紙に書かれてあった。

今年2月から3月にかけて相次いで刊行された『「和」の行事えほん』(英語版)の2巻をぜひ手に取っていただき、ご一読を薦めたい。絵本についての問い合わせ先は東京都豊島区にある出版社「絵本の家」(電話03-3985-3350)。

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