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第408回 ドゥテルテ政権と風化した黄色い革命(下)  直井謙二

第408回 ドゥテルテ政権と風化した黄色い革命(下)  直井謙二

第408回 ドゥテルテ政権と風化した黄色い革命(下)

アキノ元大統領が「ドゥテルテ氏が当選すれば国は独裁体制になる」と発言したのにもかかわらずドゥテルテ氏は2016年5月の選挙で圧勝し大統領に就任した。フィリピンが1986年2月以来の黄色い革命に別れを告げた一瞬だった。

革命以来政権を担ったマニラ・エリートは国民の切なる願いを実現できなかった。期待されたアキノ政権もその後を継いだマニラ・エリートによる政権も庶民や地方に目を向けなかった。市民の願いは中国との南シナ海の領有権争いなどではなく、海外に出なくとも国内に仕事があり家族と共に過ごす平凡な暮しや夜ひとりで出かけられる治安の安定などだ。スラム街を取材すると大勢の子供を抱え毎日の食事を用意するのが精いっぱいで、十分な教育を与えようとすれば海外に仕事を求める以外に方法がないことが実感できる。(写真)

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一方、南シナ海の領有権を巡ってハーグの仲裁裁判所は去年7月中国の主張を退ける判決を出した。ドゥテルテ新政権の対応が注目されたが、訪問した中国では判決には触れず、インフラ整備などの経済支援を勝ち取った。海外労働に出なくて済むようにするには国内に産業を育てなければならないが、外資や外国産業を呼び込みにはインフラ整備と治安の安定が欠かせない。中国や日本から経済援助を受けるとともに人権団体が危惧を示すほどの強引な取り締まりで麻薬の撲滅やマフィアの一掃に乗り出した。

フィリピン市民にはアメリカに対し愛憎相半ばする微妙な感情がある。長い間のアメリカによる植民地支配が生んだものだ。アメリカはフィリピンに民主主義を持ち込んだが、戦後の日本のように財閥には手を付けず貧富の差が解消されなかった。市長として貧しいミンダナオのダバオを再生させたドゥテルテ氏に国民の期待が集まる。米軍の2年以内の撤退と防衛協定破棄をほのめかし、市民の反米感情を満足させた。

アメリカに亡命した故マルコス元大統領の遺体が93年故郷の北イロコスに戻り筆者も取材した。当時はまだ政権に遠慮しささやかな埋葬だった。ドゥテルテ大統領は遺体をマニラの英雄墓地への埋葬を決断し、最高裁が許可した。30年ほど前、独裁者として祖国を追われた故マルコス大統領だったが、英雄墓地への埋葬に対して大きな反対運動は起きなかった。

アメリカの影が見え隠れした黄色い革命は風化した。ただ黄色い革命がその後の東南アジアの民主化を促したことは確かだ。

 

《アジアの今昔・未来 直井謙二》前回
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