第392回 フィリピンのクリスマス帰郷 直井謙二

第392回 フィリピンのクリスマス帰郷
国民の10人に1人が海外出稼ぎに出る国フィリピン。総人口は9,000万人。つまり900万人近くが海外で働いていることになる。この20年でほぼ倍に増えているという。
国民の90%弱がキリスト教徒のフィリピンでは帰省ラッシュはクリスマス前がピークになる。ニノイ・アキノ国際空港は帰国ラッシュの人達で埋め尽くされる。渡航先は様々で、中東からは労働者、香港やシンガポールからはお手伝いさんが帰ってくるが、皆一様に大きな荷物を抱え家族の出迎えを受けるのだ。抱き合い涙を流し家族の無事の帰国に安堵する姿や、しばらく見ない間に大きくなったわが子の成長ぶりに驚く光景が見られる。(写真) 高価な航空券や家族への土産を買う資金がなかなか貯まらないため帰国できず、数年ぶりに再会する家族も珍しくない。

以前、成田空港で列を作って故郷へ帰国するフィリピン人女性は最近は随分減った。10年ほど前、日本への労働渡航ビザの発給が厳しくなり、日本のどこでも見られたフィリピンバーは激減した。バーで思い出したが、フィリピン市民はバーの付く月はクリスマスだという。
9月のセプテンバー、10月のオクトーバー、11月のノベンバーそして12月のディセンバーと語尾はいずれもバーだ。9月になれば早くもクリスマス気分になるのだ。そしてクリスマス直前の街の両替所は大混雑となる。給料を外貨で受け取り帰国した市民が買い物のためフィリピン通貨ペソに変えるためだ。この時期両替業者は強気で、ペソ高になる。
デパートやモール街はクリスマスの買い物客でごった返す。遊園地も大勢の客で埋まる。クリスマスシーズンだけオープンする巨大な臨時遊園地もできる。遊園地の設営は11月頃から始まり、観覧車、ジェットコースターそれに射的などが用意される。
祝い事には欠かせない豚の丸焼き、レチョンも飛ぶように売れる。海外での労働の苦労を忘れ、家族との団らんや行楽は年が明けても続く。日本と違い貯金をする習慣がないフィリピンではクリスマス休暇期間中に海外で稼いできたお金のほとんどを使ってしまう人も少なくない。
1月も中旬になると海外の職場に戻るUターンラッシュが始まる。再び長い間家族と離れ離れにならなければならない。多くのフィリピン国民が英語を話すことも海外労働に繋がっているが、国内に産業が育たなかった事に大きな原因があるようだ。
南シナ海問題には触れず大規模な海外からの経済支援と産業誘致を狙ったドゥテルテ新大統領の訪中と訪日。海外出稼ぎ者を減らす効果があるか注目される。
写真1:ニノイ・アキノ国際空港はクリスマス前帰国ラッシュの人達で埋め尽くされる
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