依然景気回復ないまま、対中強硬のトランプ第2次政権を迎える中国、光明見いだせず(上) 日暮高則

依然景気回復ないまま、対中強硬のトランプ第2次政権を迎える中国、光明見いだせず(上)
2024年も終わりを告げようとしているこの時期、中国経済は依然デフレ状況の中にある。消費は低迷し、景気は回復していない。そんな中、11月の米大統領選挙でドナルド・トランプ氏が当選し、2025年初頭から政権を担うことになった。トランプ氏は就任後、中国からの輸入品に一律60%の関税をかけると宣言しているが、これまで明らかになったホワイトハウスの人事配置を見ると、国務長官にマルコ・ルビオ上院議員、貿易上級顧問にはピーター・ナバロ氏が起用され、トランプ氏の意向に沿うように対中強硬派で固められた。異色なのは、選挙戦でトランプを支援した実業家のイーロン・マスク氏で、新設の「政府効率化省(DOGE)」のトップに就いた。同氏が経営するEV(電気自動車)企業「テスラ」社は上海に生産工場を持っており、比較的中国との関係は良い。それでも、米国の対中強硬姿勢は変わらないのか。こうした米側の動きに対し、中国は12月、政治局会議、党中央経済工作会議を相次いで開いて金融緩和策を打ち出したが、トランプ対策について明確な意思は伝わってこない。
<ファンダメンタルズ>
中国国家統計局は10月18日、2024年1-9月期のGDP成長率が前年同期比4.8%増になったと発表した。第一四半期(1-3月)が4.5%、第2四半期(4-6月)が4.7%、第3四半期(7-9月)が4.6%の増とのこと。これで1-9月期の通しで4.8%になるのは理解しがたいが、統計局はそう発表した。政府は同年の成長率目標を「5.0%前後」としていたので、最終的に通年で目標達成ができたと誇りたいのかも知れない。1-9月期の消費(社会消費品小売総額)は3.3%の増と、GDPで5割の比率を占める個人消費はそれほど伸びなかった。飲食業は前年同期から1.7ポイント下がって6.2%増にとどまった。自動車は2.1%の減、新築不動産販売額は前年同期(25.0%減)より幾分回復したものの22.7%の減。
同統計局の12月16日の発表によれば、11月の小売売上高は前年同月比3%の増で、3カ月ぶりに低い伸び。10月が4.8%であったので、ここからも世間の消費意欲はまたまた低いことを裏付けた。中国では毎年11月11日を中心に「光棍節(独身の日)」などと銘打ってEC最大手の「アリババ集団」などがネット上で大々的なセール、プロモーションを展開するが、今年は期待した売り上げが確保できなかったようだ。米ブルムバーグ通信社では11月に5%増が予想されていたが、程遠い。また、同月の工業生産高は前年同月比5.4%の増で、10月の数字より0.1ポイント伸びた。統計局スポークスマンは「中国経済は全般的に安定しており、着実に進展している」と胸を張る一方、「外部環境がますます複雑化し、内需が不足している」との不安ものぞかせた。
現場の担当者が景気の先行きを判断する基準である製造業購買担当者景気指数(PMI)は11月に50.3であった。「50」が好不調の境目となるが、9月の49.8から10月には一転50.1との好調との見方が増えていた。10月、11月と2カ月連続で50を上回り、この数字を見る限り、全体として先行きを楽観視しているようだ。業種別では、一般機械設備や自動車産業が好調で、「生産指数」と「新規受注指数」の個別項目でいずれも54.0%以上に達した。だが、建築業やサービス業などの非製造業では50とイーブンで、前月の50.2を下回った。企業規模別では、大企業のPMIは10月比0.6ポイント低下したものの、それでも50.9。一方、中企業は50.0%、小企業は49.1%であり、中小企業ほど厳しい見方をしているようだ。
PMIの「新規受注」という項目別では、前月より0.8ポイント上がって50.8となったが、これは製造業の大型国有企業を中心に年内に年間生産目標を達成しようと生産を強めていることが背景にある。一方で、中小企業で依然厳しい見方をしているのは、欧米との経済関係に悲観的な見通しを持っているからのようだ。特に、11月初めの米国大統領選で、対中国貿易に高関税を掛けると宣言しているドナルド・トランプ氏が当選したことで、米中間貿易が減少するのではないかとの懸念がある。海外からの新規受注という項目では48.1と大きく平均値を割り込んでいるが、中小企業の多くは3-6カ月先の輸出を悲観的に見ているのであろう。
11月の消費者物価指数(CPI)は前年同月比で0.2%の増で、10カ月連続のプラスとなった。食品は1.0%の上昇と前月の2.9%増から大きく縮小した。野菜や豚肉の価格高騰ペースが落ち着いたことが原因で、国家統計局は「天候要因があったから」と分析している。同月の中国全土の平均気温は比較的高めであり、これが農産物の生産・輸送の安定を支える要因となった。価格変動の激しい食品とエネルギーを除いたコア指数は0.3%の上昇だった。ロイター通信がエコノミスト対象に調査をしたところ、11月は0.5%増になるのではないかとの見方が多かったが、実際の上昇率は10月の0.3%から0.1ポイント縮小した。3カ月連続で上昇幅を下げており、最近5カ月で最低の伸び率となった。
卸売物価指数(PPI)は前年同月比で2.5%の減。10月の2.9%減より縮小したものの、2022年5月から26カ月連続でマイナス状態にある。ロイター通信は2.8%の下落と予想していたが、そこまでは落ちなかった。生産財は2.9%の減となり、品目別では、石油・石炭が11.6%、鉄鋼が8.2%、化学原料が5.0%とそれぞれ大幅減であった。鉄鋼需要がないのは、不動産不況の影響に他ならない。内需が冷え込んでいるので、全般に原材料や製品の価格は上がる状況にない。自動車類は3.1%、通信機器類は2.5%の減となっており、原材料や製品を見ても、デフレ傾向からの脱却とは程遠い感がある。
日経新聞によれば、在中国の欧州企業にも好況感はない。ドイツ商工会の調査では、2024年に「事業経営が悪化した」と回答した企業が55%と半数以上になった。前年調査から3ポイント増えた。逆に「運営が改善した」と答えた企業は15%で、前年比で6ポイントダウンした。英国の進出企業も58%が「過去1年で事業運営が困難になった」との反応。逆に「容易になった」との回答は13%に過ぎず、全体としては厳しい状況を訴えている。だが、2025年の対中投資をどうするかを聞いたところ、「24年に比べて増やす」という回答が31%で、「減らす」という回答(8%)を大きく上回ったのは驚きだ。欧州企業は中国とのサプライチェーンをしっかりと構築しており、あくまで長期的な視点で見ているようだ。
当局の発表によれば、2024年10月、中国の全体失業率は5.0%だったという。9月の5.1%から0.1ポイント下がり、4カ月ぶりに最低値。地元住民の失業率は0.1ポイント減少して5.1%、非地元住民は4.8%、非地元農業登録者は4.7%。 31の主要都市では、都市部の失業率は5.0%であったという。 いつも注目されるのは若年労働者(16-24歳)の失業率だが、7月が17.1%、8月が18.8%と明らかにされている。しかし、大学生が卒業期を迎えた秋以降の数字は中国国内のサイトでも見られない。
<米中経済関係の方向>
中国経済を見る上で、対米関係の動向は見逃せない。大統領選挙に勝利したトランプ氏は11月25日、突然「(2025年1月20日の)就任後直ちに、メキシコとカナダからのすべての輸入品に25%の関税を課す大統領令に署名する」と宣言、隣国に対し一段アップの高関税で臨む姿勢を明らかにした。北米では、民主党クリントン政権の1990年代、「北米自由貿易協定(NAFTA)」が結ばれ、流通をスムーズにしていたが、トランプ政権となって2020年に「米国・メキシコ・カナダ協定(USMCA)」に替えられた。これでNAFTAよりも貿易障壁が幾分高くなったものの、自由貿易の精神は継続された。しかし、中国企業がメキシコに工場を造り、製品を地続きで米国内に運び、高関税をうまくすり抜けようとする動きを見せているため、再度垣根を高くするようだ。
トランプ氏が前政権時代、総額で2000億ドル相当の中国からの輸入品に追加関税を課し、貿易戦争を引き起こしことは記憶に新しい。米紙によれば、今回、大統領選挙期間中、すべての輸入品に一律10%、中国製品には特別に60%の関税を課すとも宣言している。米国の実行関税率は全製品2.87%に過ぎない。今回、トランプ宣言通りに関税上乗せが実行されたら、とりわけ中国からの輸入品は“超高額商品”となる。トランプ氏の頭の中には、この関税障壁によって輸入が減れば、生活必需品は国内生産され、米国企業が活発化し、税収増によって連邦赤字も縮小するのではないかとの読みがあるようだ。
実は、ジョー・バイデン現政権も2024年春、中国製のEVの関税を現在の4倍の100%に引き上げると宣言した。併せてEV用のリチウムイオン電池への関税も7.5%から25%に、太陽光発電設備への関税も25%から50%に引き上げた。USTR(米国通商代表部)のキャサリン・タイ通商代表は関税引き上げについて、「中国の不公正な貿易からアメリカの労働者を守る」を理由にした。だが、実態を見れば、これは大統領選挙向けであることは疑いない。「国内雇用を守る」と声高に叫ぶトランプ氏に対抗して、民主党も国内労働者の歓心を買う政策を打ち出さざるを得なかったのである。
米国では今、生活用品、簡単な電気製品などは、ほとんど中国はじめ海外からの輸入に頼っている。関税障壁を作ったからといって、国内企業がすぐに代替生産できるわけではない。結局、輸入品に頼り続け、製品は高関税が上乗せされ、消費者にしわ寄せが行くことになる。
米金融大手ゴールドマン・サックスのアナリストは「実効関税率が1%上昇するごとに消費財の価格が0.1%上昇する」と予測、インフレ要因になることを指摘している。一方、米国側が高関税をかければ、中国側も報復措置を発動することは火を見るより明らか。中国は12月1日、「関税法」の中身を強化し、相手国が国際条約や貿易協定に反して関税を引き上げた場合に報復関税を課せると規定した。早くも米国との貿易戦争に備える法的整備を図った。
関税法は、従来の「輸出入関税条例」を格上げした形で2024年4月に成立した。第1次トランプ政権との貿易戦争でも追加関税などの報復措置で対抗しており、北京の外交筋は「従来の枠組みでも対抗可能だが、法制度を整えて措置の正当性を高める狙いがある」と指摘した。
中国は2021年に外国の対中制裁に対して入国禁止や資産凍結といった措置を講じることを盛り込んだ「反外国制裁法」を施行。24年10月にはハイテク製品に欠かせないレアアース(希土類)の国家管理を強化する「レアアース管理条例」もスタートさせた。半導体の輸出規制で対中圧力を強めている日米欧に対抗する姿勢を明確にしている。トランプ氏が第2次政権の発足で早速対中貿易の壁を高くしたら、中国もそれに合わせて相応の措置を講じることになり、米中の通商には途端に大きな支障が生じるであろう。
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