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依然景気回復ないまま、対中強硬のトランプ第2次政権を迎える中国、光明見いだせず(下) 日暮高則

依然景気回復ないまま、対中強硬のトランプ第2次政権を迎える中国、光明見いだせず(下) 日暮高則

依然景気回復ないまま、対中強硬のトランプ第2次政権を迎える中国、光明見いだせず(下)

<新政権の経済布陣>
トランプ第2次政権の閣僚を見ておこう。外交を中心的に担う国務長官にはマルコ・ルビオ氏が就く。キューバから経済移民として米国に逃れた両親の子としてフロリダ州で生を受け、若くして上院議員になった。小さな政府、新自由主義的な経済政策を一貫して支持してきた筋金入りの共和党員である。不法移民の合法化、地球温暖化対策、人工妊娠中絶、銃規制に反対しており、これらはトランプ氏の主張に近い。政治的には共産主義を嫌い、特に中国へは厳しい目を向ける。新疆ウイグル自治区での人権問題を厳しく批判したことに中国は激怒し、2020年にルビオ氏ら4人の議員に対し入国禁止措置を取った。

来年1月、ルビオ氏が国務長官になれば、当然交渉目的で中国への入国が必要となる。中国当局がすんなりと「ルビオ国務長官」への入国禁止措置を解除するかどうかが注目される。トランプ陣営もその辺の事情を十分承知しており、中国側の対応を瀬踏みした感がある。ナバロ次期貿易上級顧問は、もともとカルフォルニア大学教授の経済学者であり、第1期トランプ政権の際は、新設された「国家通商会議」の座長に就任。対中追加関税の実施など、中国に対する強硬な通商政策の策定で中心的な役割を果たしてきた。第2次トランプ政権でもナバロ氏の存在は大きくなるに違いない。

USTR通商代表に選任されたジェミソン・グリア氏は、第1次トランプ政権時代にロバート・ライトハイザー元代表の首席補佐官を務め、対中強硬姿勢を見せていた。商務長官になるハワード・ラトニック氏、エネルギー長官のクリス・ライト氏、国家エネルギー会議議長になるダグ・バーガム氏らもトランプ路線の忠実な支持者であることが知られている。農務長官になるブルック・ロリンズ女史は保守系のシンクタンク「アメリカ・ファースト政策研究所」の所長で、第1次トランプ政権時代、ホワイトハウスの「国内政策会議(DPC)」を率いた経験もあり、それ以降もずっとトランプ氏の政策立案に協力してきた。国内農家支援や食糧自給率に固執し、グローバルリズムに対して冷ややかだ。

こうした閣僚の中で一番注目されるのは、やはりイーロン・マスク氏ではなかろうか。大統領選挙期間中から、自らの事業そっちのけでフル回転のトランプ支援に回った。この論功行賞でもあるのだろう、新設の「政府効率化省(DOGE)」長官に抜擢された。DOGEは政府の人員整理や歳出削減を目的にする部署と言われ、ある意味、庶民人気を気にするトランプ氏にとっては表面に立って関わりたくないミッションだ。それを採算重視の民間企業の大御所でありマスク氏に託したのは理に適っているのだが、半面、トランプ氏が同氏をそれほど重視していない証左でもある。DOGE長官というポストからして、マスク氏が対外通商政策に関与する可能性は低い。しかも、トランプ氏自身がかなり対中強硬派なので、マスク氏の親中姿勢に配慮することはないのではないか。 

<米中貿易の方向性>
米中貿易の規模は2022年に6903億ドルと過去最大になった。ただ翌年の23年に5750億ドルと前年比16.7%も減少した。米国の対中輸出が1478億ドルで同4.0%の減。中国からの輸入が4272億ドルで同20.3%の減となった。輸入の減少幅は過去10年間で最大とのこと。米国にとって中国は2003年から2022年まで最大の輸入相手国だった。米中両国は政治的にさまざまな対立をしながらも相互の経済依存度は高い。これは、米国が生活日用品、玩具、家電製品など軽工業品の国内生産は限られ、中国に頼らざるを得なかったからだ。履物業界を例に取れば、米国で売られる靴の95%が中国からの輸入品であるという。

だが、台湾情勢などでの緊迫感が強まる中で、米側が今後を見据え、対中依存を再検討したもようだ。米国の貿易総額に占める中国の割合は、2018年当時2割ほどであったが、その後漸減傾向になり、2023年では11.3%まで下がり、2005年並みの低水準となった。バイデン大統領は政権後期に生活用品などを東南アジアや西アジア方面からの輸入に振り分け、米中関係の悪化によるリスクヘッジを図ってきている。一方、米国の中国向け輸出が減ったのは、半導体など先端技術品の規制を強化したことがある。それに伴い、中国側もその報復として、農産物の輸入先をブラジルなどに替え、米国産の小麦、トウモロコシ、大豆などの買い入れを抑え始めた。

第2次トランプ政権で、米中が本格的に高関税、サプライチェーン無視の貿易戦争を始めたら、どちらが有利に戦いを進められるのか。中国は米国産農産品についてロシアやアジア、中南米などからの輸入で代替することができる。実は、中国向け農産品の生産地はトランプ氏支持者の多い中西部であり、これら地域の農民は輸出先を失えば痛手を被るし、トランプ氏にとっても苦々しい。ただ、米国の対中貿易は2023年に382億9000万ドルの赤字で、過去を遡っても赤字傾向にある。ずっと続いているこの貿易不均衡を解消するには中国側の輸入努力が必要だが、米側が先端技術品の輸出を抑制している以上、農産品で埋め合わせをせざるを得ない。中国側も家畜の飼料としての穀物輸入は欠かせず、そのために米国からの買い入れを減らすことは難しい。

香港の親中国誌「亜州週刊」によれば、ハワード・ラトニック次期商務長官は、トランプ氏が打ち出した60%増の高関税化政策を完全に支持すると表明するとともに、「中国のAI技術の発展を阻止し、ファーウェイ(華為技術、通信機器大手企業)、中芯国際(半導体ファンドリー企業)などの先端企業に打撃を与えるため、次期政権では輸出管理を徹底させる。鍵となる高度技術は提供しない」と宣言している。しかし、高関税の掛け合いは結局、デカップリングを進め、経済の発展を阻害する。オックスフォード経済研究院のデータによれば、中国からの輸入品に一律60%の関税をかけたら、両国間の貿易総額は現在の7割程度になってしまとの見方もある。

輸入物価の高騰によってインフレ化も促進されよう。高関税製品、商品など米国の消費者も企業のどこも喜ばないし、望んでいない。経済を政治の道具にしてもらいたくないというのが本音ではないか。むろん、中国側への影響も大きい。前述ように、中国の全対外輸出額に占める米国の比率は2017年には19%だったが、現在ではすでに漸減傾向にある。軽工業品を中心に米国への輸出はそれなりのボリュームがあるのだが、高関税によってさらに対米輸出にブレーキがかかることは否めない。スイス銀行の予測では、60%関税実施後1年で中国の経済成長率は1・5ポイントほど引き下がると指摘している。つまり、両国にとって良いことは何もない。それでもトランプ氏が敢えて高い障壁を設けるのは、政治的な狙いがあるのかも知れない。 

<政治局、経済工作会議>
米系華文ニュースによると、中国は12月9日、政治局会議を開催して2025年の経済政策を検討した。その結果、来年は「積極的な財政政策を展開する」「適度に金融を緩和する政策を取る」との方向性が示されたという。2008年、リーマンショックによって世界経済が混乱に陥った時に中国も影響を受けたが、果敢に4兆元の公共投資を行い、景気刺激を図って一定の成功を見た。このため、中央政府が「夢をもう一度」とばかりに国債、地方債を発行し、マネーサプライを増やす考えを持ったようだ。ただ、不動産不況を受けて、今、大規模なインフラ投資先もない。地方政府はこれまでの債務を抱えて財政を弱らせており、とても新規事業を進める体力はない。

政治局会議ではこのほか、「大規模に消費を振興させる」「全方位で国内需要を拡大させる」、さらには「経済体制改革を進め、改革の目標に向かって邁進する」との方向性も強調された。GDPの5割を占めるという個人消費を引き上げようとの狙いだが、不動産不況で家計を弱め、さらには失業者が多く出ている中で個人消費を伸ばすのは難しい。経済体制改革とは具体的に何を言っているのか分からないが、温家宝元総理が言うように「政治改革なしに経済改革を実施することは不可能」であろう。人民銀行(中央銀行)は9月末に1年もの金利をそれまでの2.3%から2.0%に引き下げ、10月に地方政府の債務処理のために10兆元の財政支出を明らかにした。

この政治局会議を受けて12月12日、来年の経済政策の方向を決める党中央経済工作会議が開かれた。この中では、不動産市場、株式市場の安定化を図るための積極的な財政支援がうたわれ、特別国債、地方専項債の増発、金利引き下げによる金融緩和によって市中の資金流動性拡大を図っていくことが示された。さらに、消費の振興も強調された。中国も老人社会になっていることから、養老年金を引き上げ、住民医療への補助金をアップするなどの策が提示されたようだ。ただ、両会議の後の株式市場はあまり芳しい反応を示さなかった。これについて、米紙「ウォール・ストリートジャーナル」は「一連の政策目標が民衆向けでなく、地方政府や企業に向けたものであるからではないか」と分析している。両会議ではほとんど内向きの議論に終始したようで、特に対外通商に関わる策は打ち出されていない。

ロイター通信は経済工作会議を受けて、「中国は米国の高関税に対抗して来年人民元安を容認するのではないか」との見通しを示した。これに対し、ナバロ米次期貿易上級顧問は直ぐに反応し、「トランプ政権はこれを漫然と受け入れるつもりはない。為替操作国には断固たる姿勢で臨む」と語った。2019年、第一次トランプ政権の時、中国が人民元安を図ったとして為替操作国に認定した過去がある。米国の中国大使館は「ナバロ発言は事実に基づかない。われわれは責任ある大国として意図的に為替安などに導くことはない」と反発した。

米中貿易をめぐっては、トランプ氏が就任する前から、早くも丁々発止のやり取りがある。それだけ双方が両国の通商関係を重視している証左であろう。中国アナリストによれば、党中央は、2025年通年の成長率を24年同様に「5%前後」にする方針であるとのこと。低迷のままの消費や、米国との関係が大きな比率を占める対外貿易が上向かない限り、この数字の達成は容易でない。トランプ氏は政権発足後、中国との間で実益を優先させるのか、それとも政治的な強硬姿勢に固執するのか。中国は今、さまざまな予測を立てて対応策を練っているところであろう。

 

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