第364回 言葉で浮き彫りになるタイ人気質 直井謙二

第364回 言葉で浮き彫りになるタイ人気質
日本人はよく「頑張る」という言葉を使う。スポーツ選手も受験生もサラリーマンも成功すればもっと「頑張る」失敗すると次は「頑張る」と言う。勤勉な日本人の国民性を表しているようだ。ではタイ人はどうだろうか。挨拶の「サワディーカ」(こんにちは)は有名だが、親しい間柄の場合は「サヌック・マイ」(楽しいですか)のほうが一般的だ。仲間が楽しく過ごしているかどうかを気にしているようだ。仮に楽しくてもひけらかさないように「マイ・サヌック」(たのしくない)と答える。すると声をかけた人は「タイ・ディークワ」(死んだほうが良いね)と決まり文句を返す。日本の感覚からするとこの掛け合いは穏やかでない。
この掛け合いのパターンは大阪の「儲かりまっか」に似ている。儲かっていなければ「あきまへんわ」、儲かっていれば「ぼちぼちでんな」と応える。声をかけた人は「気張りや」と日本人らしく頑張ることを勧める。大阪商人にとって儲かることが大切であり、儲けを目指して頑張っているのだ。
一方、タイ人は楽しく過ごすのが人生の目的でそれが実現しないくらいなら死んだほうがましだということなのだろうか。ちなみに親しい者同士が別れるときは「チョーク・ディ」(幸運でありますように)と言い合う。楽天的で輪廻転生を信じるタイ人らしい挨拶だと思う。
タイ人は「マイ・トン・グレンチャイ」(遠慮しないでください)という言葉も良く使う。
友人を招き食事をご馳走するときなどは連発される。比較的個人主義で他人の領域に入ることを遠慮するのがタイ人の国民性なのだ。それと対照的なのがフランクなフィリピン人気質だ。知り合ってまだ間が無いのに友人扱いされパーティに招待されたり、借金を頼まれたりする。
タイ語を代表する「マイ・ペン・ライ」は使い方が特に難しい。一般には(気にしない)と理解されているが、場合によっては変化する。会社で雇用している運転手が事故を起こした時に「マイ・ペン・ライ」と言ったと在住の日本人が憤慨していたのを聞いたことがある。運転手が自分の責任を気にしていないと理解したようだ。この場合は「大きな事故ではありません。大丈夫です」と日本人に気をつかう意味合いがあるのだ。

市場などで商品を進められた場合などでも「マイ・ペン・ライ」は良く使われる。(写真)
この場合は「買いません」という意味だ。直接買わないというと角が立つので「私に気を使わないでください」と遠まわしに断っているのだ。日本語の結構ですと似ている言い方だ。
写真1:市場などで商品を進められた場合などでも「マイ・ペン・ライ」は良く使われる。日本語の結構ですと似てる言い方。
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