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第548回 有力紙や放送局が真剣に取材するタイのお化け     直井謙二

第548回 有力紙や放送局が真剣に取材するタイのお化け     直井謙二

第548回 有力紙や放送局が真剣に取材するタイのお化け

半年ほど前「怖くもありがたい タイの地獄寺」というタイトルで、朝日新聞が各地の地獄寺を特集していた。この世で犯罪などを起こすとタイ語で「ナロック」、日本語は「奈落」、つまり地獄に落ちるとタイでは真剣に信じられていると報じていた。

タイ語も日本語も仏教に由来する言葉でサンスクリット語のナラカからきているという。タイ人は輪廻転生を信じているので地獄に落ちないように寺や僧侶に寄進する。日本でもお化けの話題が良く登場するが、タイ人に比べどこか真剣さが足りない。

ラオス国境に近い小さな寺でお化けが出るとの著名な高僧の発言をきっかけに、有力紙や公共放送それに民放が入り乱れ激烈な取材競争をしたことはすでに書いた。(小欄 第94回タイの精霊信仰)結局この高僧の発言は嘘で、自分は他界した人と会話ができると売り込み、会話の仲介を依頼した遺族から高額な代価を詐取しようとしたことが分かり、逮捕された。この寺に犯罪者の死後を描いたお化けの人形が展示されていた。(写真)詐取した僧侶の末路を見た気がした。

朝日新聞の「タイの地獄寺」の特集では30年ほど前からタイの各寺が地獄をより具体的に表現するためお化けの人形を作り始めたと報じていた。

ラオス国境に近い寺を取材したのは25年ほど前でこの寺も流行を追ったものとみられる。
ユーモラスなお化けの人形を撮影して取材を終え帰ろうとした時、タイの民族衣装で正装した老婆が頭を下げ筆者を拝んでいた。タイ人の助手にその訳を聞いてもらうと、老婆によれば、夕べ夢枕に仏さまが立った。仏さまは寺に外国人が来ているから拝めとおっしゃったという。タイ人の助手をせかして車を飛ばし、逃げるようにバンコクに帰った。

一方、隣国カンボジアの地獄思想にはもっと古い歴史がある。インド文化がメコン川をさかのぼり扶南、真臘とヒンズー国家が続き、9世紀になるとトンレサップ湖の畔にアンコール王朝という大倫の花が咲いた。

アンコールワット寺院の第一回廊には生前の罪の審査を受けるために死者が並び、審判を待ち、審判が終わった死者は地獄と天国に分かれてゆく壁面彫刻が描かれている。

徳を積んだ死者は上に向かい天国に行く。ならず者は審査後、下に行くように描かれていて奈落つまり地獄に落ちる。建立は12世紀末だから古くから地獄寺の構想はあったようだ。権力者には都合がよい思想で、歴史的に王朝や王国が仏教を保護した背景も透けて見える。

《アジアの今昔・未来 直井謙二》前回  
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