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第546回 墓を巡るアジアの宗教紛争 直井謙二

第546回 墓を巡るアジアの宗教紛争 直井謙二

第546回 墓を巡るアジアの宗教紛争

最近日本では樹木葬や墓終いなどの言葉に代表されるように墓に対する概念が変わってきた。筆者も以前は会社関係や自治会などの葬儀に参加したが、最近は家族葬が多くなり、葬儀の参列は大幅に減った。一方で埋葬を巡って紛争が起きている国もある。

今年の初め朝日新聞のコラムにスリランカで火葬を巡って衝突が起きている記事が掲載されていた。人口約2,100万のスリランカは仏教徒のシンハリ族が約7割を占め、ヒンズー教徒のタミル族が18%を占めている。その他、8%のキリスト教徒と7%のイスラム教徒がいる。

最近、新型コロナウイルスが蔓延した影響で政府は土葬の習慣を持つイスラム教徒の意向を無視して火葬を強制しているという。新型コロナウイルスの蔓延を防ぐには早期に火葬にするべきというのが政府の見解だが、死者は土葬され骨になった後、元の身体によみがえると信じているイスラム教徒には耐えがたいことだ。

火葬された後、遺骨を川に散骨するヒンズー教の葬儀は何度か見たことがある。死体は単なる抜け殻であるとして、墓も作らず火葬して川や仏塔の下に散骨する。一方、パキスタンでアフガンニスタン難民用に建立されたイスラム式の墓を見た。アフガニスタンといえば2019年12月、長い間アフガン難民の救済を続けてきたペシャワール会の中村哲医師が銃撃を受けて殺害されたことは記憶に新しい。80年代から90年代にかけてペシャワールの難民キャンプを訪ね、祖国を追われた難民の生活を取材した。(写真)

難民キャンプに隣接した墓地は広い。劣悪な生活環境と共に墓地も記憶に焼き付いている。土葬のため一人が占める面積が広く、墓地は必然的に広くなる。ガイドに墓標を読んでもらうと難民キャンプで生まれ難民キャンプで没した若い人も多く埋葬されていることが分かった。祖国アフガニスタンを知らないまま、短い一生を終えた難民や家族は死後によみがえると信じることが唯一の救いだったのかもしれない。

その一方で、スリランカで大半を占める上座部仏教徒やヒンズー教徒は死後、魂は肉体を脱し、輪廻転生して次の人生が始まると信じている。死後の遺体を火葬することに違和感はない。

スリランカは先住で仏教徒のシンハラと紅茶の生産をもくろむイギリスの政策で入植したヒンズー教徒のタミルの間で起きた長い内戦で苦しんできた。新型コロナで始まった仏教徒とイスラム教徒の宗教紛争が再び長期化する懸念がある。

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