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第542回 東南アジアのミズオオトカゲだ。 直井謙二

第542回 東南アジアのミズオオトカゲだ。 直井謙二

第542回 東南アジアのミズオオトカゲだ。

日本ではお目にかかれない動物や植物が多い東南アジア。ミズオオトカゲもその一つだ。

初めて見たのはシンガポールのセントーサ島だった。マレー半島の先にぽっかり浮かんでいる島は観光地として有名だ。30年ほど前は遊園地や砂浜それにゴルフ場がある小規模なジャーランドだった。子供とおとぎ電車に乗っていた時、全長1メートルほどのミズオオトカゲが電車の脇をノソノソと歩いていた。思わず叫び声をあげてしまったのだが、子供はミズオオトカゲよりも父親の叫び声に驚いたようだった。ワニに似ているがおとなしい動物で人に危害を加えることはないそうだ。

かつて一緒に記者活動をしていたN氏はビジネスマンとして現在シンガポールに赴任していてミズオオトカゲの写真を送ってくれた(写真)。ミズオオトカゲは名前の通り、淡水に棲みついている。東洋のベニスと呼ばれるタイの首都バンコクにもたくさん生息していたといわれるが、今ではほとんど見ることができず一度だけルンビニ公園で見かけた。

バンコクに水路が網の目のように張り巡らされ行き交う船が重要な交通手段だった時代は水路のあちこちでミズオオトカゲが見られたという。高度経済成長とともに交通手段は船から自動車に代わり、水路は道路として埋め立てられた。棲みかを追われたミズオオトカゲの多くが姿を消したが、一部は池や樹木が多く自然が残るルンビニ公園に集まってきた。その後ミズオオトカゲは高度経済成長期の1980年代から増え始め現在は100匹を超えているという。

多くのミズオオトカゲが生息するのには理由があるようだ。水路を埋め立て道路にしたことにより、水はけが悪くなり雨季に起きる洪水が激しくなった。洪水によってルンビニ公園の池の水があふれ、コイが池からビル街に流れだしたことがあった。ビルの谷間で釣りや投網をする奇妙な光景が見られた。逆に水が引くときコイなどと一緒にミズオオトカゲがルンビニ公園に流れ込んだ可能性もある。

バンコクは屋台が名物だが、ルンビニ公園も例外ではない。多くのサラリーマンや家族連れが屋台で食事をしている。食料が豊富なタイでは食べ残しを放置するのでミズオオトカゲにとっては絶好のえさになる。ミズオオトカゲにとってルンビニ公園はわずかに残ったオアシスだが、一方でミズオオトカゲの卵を取って食べる市民もいるという。卵は栄養豊富でおいしいと評判だ。ミズオオトカゲの繁殖に手を焼く当局は特に卵の捕獲の規制をしていないという。

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