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第48回 アジア取材とマラリア 直井謙二

第48回 アジア取材とマラリア 直井謙二

第48回 アジア取材とマラリア

アジアの地方を取材する時、心配になるのが風土病だ。蚊が媒介するマラリアやデング熱、食物からうつる肝炎やアメーバー赤痢などに苦しめられた同業者は数知れない。

20年弱のアジア取材で誇れるほどの成果はないが、風土病に一度もかからなかったことは自慢できる。基本的には煮たもの以外は口にしない、強行取材を避け、疲れないようにすることだ。

フィリピンのコレヒドール島で太平洋戦争により没した日本兵の取材をしていた時、当時の厚生省の医務官が敗走する多くの日本兵がマラリアで死亡したと話していた。急に周りを見回し、蚊がいないか確かめ、虫よけスプレーを露出している腕にかけた。

その様子を見ていた医務官は「敗走していた日本兵は食べることも寝ることもできず、体力が落ちていた。十分寝て栄養満点のあなた方はたいていの場合問題ない」と笑われてしまった。

1987年、大韓航空機爆破事件が起き、カレン族領内に飛行機の破片が落下したという説が流れた。タイとビルマ(ミャンマー)の国境地帯に住む山岳民族、カレン族の支配地区を取材した。カレン族の指導部は蚊帳を用意してくれた。日本兵のように体力は落ちていないと思ったが、夜は蚊帳の中に潜り込んで眠った。

その翌年、ビルマで軍事政権の圧政に学生や市民が抗議する騒乱が起き、軍に追われた学生がタイ国境に逃げ、カレン族に救われた。(写真) 国境到着後、多くの学生がマラリアで苦しんだ。ところがカレン族はマラリアにかからない。ヤンゴンからタイ国境まで徒歩で4日間、軍に追われ不眠不休でカレン族支配地区にたどり着いた学生の体力が落ちていたためだと思い込んでいた。

第72回 直井.jpg

ところが、最近、上智大学の石澤学長が書いた「アンコール・王たちの物語」を読んで別の理由もあるのではないかと思い始めた。それによると、フランスのパスツール研究所が発行した「カンボジア人のヘモグロビン」によると、クメール人は早くからマラリアの抗体となる性質を持つヘモグロビン形質を身体に獲得していた。クメール人はジャングルや河川の近くでマラリアに悩まされている間に突然変異的にヘモグロビンの中にマラリアの抗体を獲得したであろうというのである。

カレン族も山岳民族としてジャングルの河川の近くに住みついていた。長い間にマラリアの抗体を獲得していたのかもしれない。同じものを食べたのに現地の人は問題ないのに、日本人だけ肝炎になることもある。
 現地ガイドが「大丈夫」と言っても注意するに越したことはない。


写真:カレン族

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