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新型肺炎はなぜここまで拡大したのか 武漢住民が怒りの告発(上) 戸張東夫

新型肺炎はなぜここまで拡大したのか 武漢住民が怒りの告発(上) 戸張東夫

<新型肺炎はなぜここまで拡大したのか 武漢住民が怒りの告発>

武漢新型肺炎はいまや地球規模で感染拡大し、世界各地で人間社会の秩序や生活に戦いを挑んでいる。人間社会はいまもこの病原菌に太刀打ちできず、国境閉鎖、旅行制限、集団休校、観客抜きの運動競技大会など逃げの一手で急場をしのいでいる。(2020年)3月11日世界保健機関(WHO)が、国境を越えた感染が制御できなくなり世界中の誰もが感染の危険にさらされる状態を意味するパンデミックと認定したこともあり世界中の人たちは一段と危機感を募らせている。中国も、武漢もなぜこの危険な病原菌を中国国内で抑えることが出来なかったのか。最初の感染者を見つけた武漢の人たちもそんな疑問を抱かないわけにはいかない。

 

<中国を含む感染者167515人、死亡6606人>

中国のほぼ中央に位置する湖北省の省都武漢市の保健機関から原因不明の肺炎患者について報告があったのが2019年12月8日。それからすでに三か月以上になるが、感染者は世界各地に広がり2020年3月16日現在感染源の中国(香港、マカオを含む)だけで81077人、死亡3218人のほか日本を含むアジア、欧州、米国など中国以外の150か国(地域も含む)の感染者は86438人、死亡3388人に上った。(WHO Coronavirus disease 2010(COVID-19) Situation Report –56による。)

この間この病原菌に対する研究が各国で進められたが、いまだに正体不明で、このためこの病原菌の活動を抑えるワクチンも作ることができない。この病源菌の感染を防ぐにはマスクをして、手をよく洗い、大勢の人が集まるところには出かけていかないといった程度の方法しかないという有様である。あらためて大自然の威力と人間界の科学技術の発展の限界を感じないわけにはいかない。

<豪華クルーズ船ダイヤモンドプリンセスが新型肺炎培養器となった>

この新型肺炎で日本政府はとんだポカをやらかした。2月3日に横浜に入港した英P&O社所有の豪華外航クルーズ船ダイヤモンドプリンセスに新型肺炎の感染者が乗船していたという事実が明らかになったのである。このクルーズ船には乗客2666人と乗員1045人の合計3711人が乗船していたというから日本政府など関係機関は緊張したに違いない。下手をすると感染者の数が急増して対処できないという事態を招きかねないからだ。

ダイヤモンドプリンセスは(2020年)1月20日横浜港を出発し、鹿児島、香港、ベトナム、台湾、沖縄をめぐり2月3日に再び横浜に帰ってきたのである。ところがクルーズの途中香港で船を下りた乗客の一人が新型肺炎に感染していたことがその後の検査でわかった。このため日本政府が乗客、乗員全員の健康診断を実施したところ日本人3人をふくむ10人の感染が確認された。そこで政府はクルーズ船の乗客乗員の下船を許可せず、船ぐるみで十四日間隔離することにしたのである。

おそらくこれによって病原菌の日本上陸を水際で防ぐことができるとでも考えたのであろう。これがとんでもない誤りで、クルーズ船が密閉された空間となり船内で感染が拡大してしまった。米有力紙 『ニューヨークタイムズ 』は「豪華客船が病原菌培養器になってしまった」と皮肉った。(2020年2月23日)日本の医療関係者や専門家の知識水準の低いことを暴露する結果となったのではあるまいか。

こんな状況では米国市民の安全が危険にさらされる、日本政府に任せるわけには行かない。おそらくそのように考えたに違いない。米国政府は2月17日チャーター機二機を派遣、328人を帰国させた。帰国後米国内で十四日間隔離されることになっていた。このうち14人が感染者であることがチャーター機の出発間際にわかったがこの14人も帰国させた。同盟国の米国にすら信用されないというのは情けない話というほかない。ダイヤモンドプリンセス隔離は厚生労働省が3月1日乗員、乗客3711人全員の下船が完了したと発表したことで一応幕を下ろすことができた。

<グローバリゼーションが病原菌の拡散を加速させた?>

だが新型肺炎の感染拡大はとまらず、この後も韓国やイタリア、イランなどに広がった。感染拡大が猛烈な勢いでしかも広範囲に広がっている最大の原因はもちろん病原菌の感染力が強いからだ。だが国家や地域が国際分業やサプライチェーンで経済的に結びつき、ボーダレス化が進み,ヒト、モノ、カネの流れが国境を越えて増大している国際社会におけるグローバリゼーションが病原菌の拡散を加速させていることに疑問の余地はない。思いもかけぬ角度から冷戦後に西側諸国が作り上げた国際秩序が挑戦を受けているのである。

これを機に国際社会はどのように、またどの程度連携し、また国家と国家はどの程度の距離をおいたらいいのかなどに関する議論が一段と活発になるに違いない。もちろんそれと同時に中国が果たして信頼するに足るパートナーであるのかどうかについての議論も再燃するに違いない。

中国が果たして信頼できるパートナーなのかどうかはさておき、新型肺炎をこれだけ世界中に感染させた責任をそれなりに感じてほしいものである。

<中国当局の新型肺炎への取り組みを批判する>

米国のコラムニスト、ウォールター・ラッセル・ミードは(2020年)2月3日の米有力紙『ウォールストリートジャーナル』掲載の論評で「最近中国に滞在した米国籍以外の者の入国を拒否するという米国政府の決定に対して中国当局がいくら文句をいっても、新型肺炎の感染をかくも広範な地域に、またかくも急速に拡大させたのは全て武漢と北京が決めたことだという事実を隠すことはできない」と中国の責任を追及している。

すでにご存知の読者もおられるであろうが、この論評のタイトル「China Is The Real Sick Man of Asia(中国はまさにアジアの病夫だ)」が気に入らぬと中国政府がこれに反発報復措置として同紙の中国駐在記者三人を同時に国外追放した。だからどうしたというわけでもない。ただそのようなことがあったということを紹介しただけである。

新型肺炎の感染拡大やその政治的、経済的影響などについて精力的な報道を続けている米紙『ニューヨークタイムズ』は「公衆衛生の専門家によれば、国民や医療の専門家達に積極的に警告を発するということをしなかったため、中国政府はこの新型肺炎を大流行させないようにする絶好のチャンスを一つ失ってしまった。」(2020年2 月2 日)、「中国の人たちは厳しい検閲下にもかかわらず、オンラインでいまや公然と中国当局の新型肺炎への対応、とくに初期の取り組みの後れと早期警告の禁止を批判している。」( 同 11 日)などと報じている。

また新型肺炎の最初の感染者が発見された中国武漢市に住む筆者の中国人の友人Aさん(36歳)もこれと同じ不満を当局に抱いており「中国政府はSARSのときの教訓を学んでいるので、今度はこの新型肺炎をうまく抑えてくれるに違いないと当初考えていたのだが、今になって思うと政府の対応はSARSの教訓に学ぶどころか当時より劣るもので全く失望した」と筆者にメールで訴えた。筆者も全く同感で、中国に対する内外の批判はまさにこの辺りに集中しているといえそうだ。

 

写真1:武漢全面封鎖後の武漢空港の人影の見えないチェックインエリア



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