中国の自動車輸出は好調だが、国内需要は減退-前年から一転、2026年の生産は抑制に 日暮高則
中国の自動車輸出は好調だが、国内需要は減退-前年から一転、2026年の生産は抑制に
2026年も半期が過ぎた。中国経済は、ファンダメンタルズ(基礎条件)を見る限り、回復基調を示しているようだ。だが、冷静に見るとどうだろうか。国内総生産(GDP)は消費、投資、政府支出、貿易黒字で構成されるが、現在、中国国内の消費の構成比率は4割ほどで、米国の7割、日本、韓国の5割という先進国に比べて低い上、近い将来増える見込みはない。アナリストは「不動産不況に端を発したデフレ傾向で一般庶民の財布の口はますます堅くなっている」と指摘する。消費が下がれば、国内企業の投資意欲は湧かず、加えて、労働コスト高、反スパイ法問題などさまざまな要因によって海外からの投資も縮小している。頼みは、有効需要を創出する政府の公共事業投資だが、これも建設的なプロジェクトは一渡りした感がある。地方政府は財政難で思うように資金を捻出できないし、中央政府も無尽蔵に地方へ支出できない。となると、企業は国内で捌けない製品を海外で売り込むしかなく、輸出が注目される。主力製品は自動車や安価な電気製品だ。とりわけ電気自動車(EV)は中国の”目玉商品“だが、期待通りの成果が得られているのだろうか。
<ファンダメンタルズ>
初めに中国経済の現状。全人代(国会に相当)は2026年のGDP成長率目標を4.5%-5.0%増としていた。上半期が終わってその結果を見ると、国家統計局のデータでトータルの実質成長率は4.7%増であった。目標値を達成しているので、まあまあの成果ということになろう。ただ、第1四半期は5%増だったが、第2四半期が4.3%増とダウンした。統計局は4月時点で、「良好なスタートとなった」と第1四半期を総括しただけに、続く3カ月の下降数字はショックであったに違いない。今冬、自動車、電気製品など欧州向けの輸出が好調であったが、GDPの3割を占めていた不動産関連産業が相変わらず低迷状態から脱せず、加えてデフレ不況感から国内消費も伸びない。輸出も、受け入れ先の反ダンピング規制などがあるため、今は黒字でも楽観はできない。
上半期の固定資産投資は前年同期比5.7%減、とりわけ民間の投資は8.5%減とかなり下落した。国内企業投資が5.5%減、台湾・香港・マカオからの投資が7.9%減、海外からの投資が4・7%減とすべてマイナスとなった。過去10年ほど、消費とサービスが経済を牽引していたが、この半年この分野への投資は8.4%ダウンした。製造業は政府の補助金が導入されたにもかかわらず、1.2%の減。工業方面で好調さを示していたのが採掘鉱業で5.9%の伸び。これは半導体などに使われるレアアースをほぼ独占していることが反映していよう。インフラ建設投資は2.4%のダウン。ネット情報では「収益が見込める道路、架橋という国内の建設的なプロジェクトはすでに終わっている。残るのは持ち出しばかりのプロジェクトだけ」との見方がされている。
今年上半期の消費者物価指数(CPI)は前年同期比で1.0%のアップ。政府は2026年の物価目標として「2%前後の上昇」を掲げていた。デフレ不況から脱するためにはある程度の物価上昇、インフレ目標が必要であるが、上半期だけ見ると、その半分程度の達成に終わっている。 中東情勢の影響でガソリンなど交通燃料が5.9%上がったほか、半導体の価格上昇に伴ってスマホ、通信機器なども上昇したが、その一方で、EVを含む自動車価格は1.2%下がった。2025年までエネルギー対応車の車両取得税が全額免除となっていたが、26年からこの免除額が半分となったため、購入マインドが落ちたことが原因だ。ガソリンなどエネルギー価格の上昇はコストプッシュ型のインフレを呼び込み、スタグフレーション化する危険性を秘めている。
2026年1-6月期の卸売物価指数(PPI)は前年同期比1.5%のアップであった。半年ごとのPPI変化を見ると、プラスになったのは22年以来だという。この年の上半期は4.1%増、下半期は10.3%増を記録したが、新型コロナウイルスの影響で2023年は通年で3.0%の下落。その後もマイナス状態が続いていた。2026年6月の単月では前年同期比4.1%アップで、4カ月連続でプラスとなった。それ以前、単月でずっとマイナスを続けてきた状況からすると、最近は上昇トレンドに転じていることは間違いない。ただ、国内消費が伸び悩んでいることから、製造企業が物価上昇分を製品価格に上乗せするのは難しい。つまり、原材料調達コストが上昇すればするだけ、企業の利益を圧迫していく。さらに、輸出相手国が中国の安い製品に対し、反ダンピング法関税を掛けるケースも見られ、中国企業は国内で在庫を抱えることを余儀なくされている。
中国海関(税関)総署が発表した貿易統計によれば、輸出額から輸入額を差し引いた今年上半期の貿易黒字は、前年同期比1.0%減の5759億ドルだった。半年タームで貿易黒字が縮小するのは2020年以来とのこと。ちなみに、昨年上半期の黒字は前年同期比34%増の5834億ドルで、5年前の数字と比べて3倍も膨らんだという。今年上半期、黒字幅が減少したのは、戦争の影響だ。中国は安い原油をロシアから購入していたが、ウクライナのドローンによる精油所爆破などで、これができなくなった。さらに、ペルシャ湾・ホルムズ海峡の封鎖で原油の輸入量が減り、4月から6月まで連続で単月の輸入量が前月を下回った。その分、米国や中南米からの輸入に頼らざるを得ず、コスト増になっている。一方、この上半期、天然ガスの輸入価格も上がり、6月は前年同期比で14%増になった。これらが貿易収支を悪化させている。
国家統計局が発表した6月の製造業購買担当者景気指数(PMI)は前月から0.3ポイントアップし、50.3だった。PMIとは、製造業320社を対象にさまざまな項目について景況感を聞くもので、「50」を上回れば好調を示し、下回れば不調となる。デフレ不況の影響で、今年に入って全体のデータは1、2月が50以下だったが、3月以降は、5月の中間点を除いてすべて50以上と好調を示してきた。6月を項目別に見ると、「生産」が51.7、「新規受注」が51.2に対し、「原材料在庫」が48.4、「従業員」が48.5であった。新規受注で50を超えたのは、製造業全体に明るい見通しを感じさせる。企業規模別では、大型企業が50.7、中型企業が50.5に対し、小型企業が48.2。小型企業で不調が多いのは、経済全体の底上げを図る上では不安材料だ。
中国の全体失業率は4月の5.2%、5月の5.1%、6月の5.0%と、徐々にではあるが、改善の方向に向かっている。上半期の都市部の平均失業率は5.2%だった。注目されるのは16-24歳の若年失業率だが、6月が14.9%で、これも5月の15.6%から改善した。ただし、この中には今夏卒業し、社会に出る在学生は含まれていない。ロイター通信によれば、この6月、25-29歳の年齢層は5月より0.1ポイント下がって7.1%、30-59歳層では同0.1ポイント下がって4.0%。雇用状況は若干だが良くなっているようだ。一方、国務院の人力資源・社会保障部(省)によると、今年1-5月に支払った失業保険金は880憶8000万元で、2013年にこのデータを収集し始めて以降、最高額を記録した。
これ以前、同じ1-5月期間で保険金支出が最も多かったのは、新型コロナウイルスが急速に蔓延した2020年の879億2000万元だった。単月で見ると、2022年5月の174億6000万元が最高額であった。2026年5月は172億2000万元で、ほぼ4年前の同期に匹敵する支払い額となった。26年5月末時点で、失業保険の被保険者は2億4885万人。近年、同保険への加入者が多く、特に青年層が将来不安から積極加入するようになっている。公的機関や企業などの固定雇用でなく、フードデリバリーや短期アルバイトなどフレキシブル・ワーカーは「霊活就業者」と呼ばれているが、その数は現時点で3億2000万人に上ると言われる。その44.1%は事実上不定期就業か、ほぼ失業状態に置かれており、彼らによって失業保険金の多くが食われている。
<世界最大の自動車製造大国>
本題に入る。中国は今、世界最大の自動車製造大国である。「汽車(自動車)工業協会(CAAM)」によれば、2023年に年間生産台数が初めて3000万台に載ったが、24年には前年比3.7%増の3128万台、25年には同10.4%増の3453万台と確実にその数を伸ばしてきた。25年を用途別で見ると、乗用車が10.2%増の3027万台、商用車が12.0増の426万台であった。販売台数も生産に比例して増加しており、2023年に3009万台と大台を超え、25年まで3年連続で3000万台を維持している。25年には3440万台に達した。本来、生産と販売には多少のタイムラグがあるのだが、それでも双方の数字が近いことは、造られた製品が即完売状態になっていることをうかがわせる。
国土が広く、高速道路網が整備された中国で急速に車社会へ移行するのは必然的な流れである。そこで、中国政府が環境配慮から新エネルギー車(NEV)の普及を促してきた。25年、NEVの生産は前年比29%増の1662万6000台。販売台数は同28.2%増の1649万台であった。国内生産、販売台数とも50%以上のシェアを確保している。これは、前述のようにNEVには補助金が出されたこと、充電スタンドも25年末時点で2000万カ所以上が設置され、設備面の条件も整ってきたこと、さらには長時間運転が可能になる充電器の普及、充電時間の短縮化が図られ、従来に比べてEVの利便性が増したことが背景にある。海南省などは、中央の第15次五カ年計画を受けてNEVを推進し、燃料車を原則2030年に全面禁止するという目標を打ち出している。
値段もリーズナブルになってきた。2023年1月のNEV乗用車の平均販売価格は17万8700元だったが、この年は月を追うごとに価格が下がり、同9月には12万4900元となった。その後1年ほどは12万元台で推移。25年以降も徐々に安くなっており、25年7月には10万900元、例年消費が増える傾向にある年末12月でも11万8300元であった。背景には、政府補助金の手助けもあっただろうが、国内の数多くのEV製造企業が過当競争をし、安価化が促された面もある。EVは専門的技術が必要なエンジンがないことから、ある種“電気製品”の一種との見方もされ、小規模企業が参入しやすい業界で、一時期、数多くの企業が乱立した。ただ最近は、大量製造、販売力を持つ大手企業に集約されつつある感じだ。
2025年のメーカー別販売台数を見ると、「BYD(比亜迪)」がトップで348万台。それに続くのが「吉利汽車」で156万台、「長安汽車」の79万台、「上汽通用五菱」の77万台、「テスラ」の63万台、さらに電子機器の最大手企業「ファーウェイ」がバックとなったEV連合「HIMA(鴻蒙智行)」の59万台が続く。もともとスマホや家電を造っていた「小米(シャオミ)」も自動車業界に参入、41万台を売り上げ、10位と健闘している。上海に工場を持つ米国企業テスラは一時期BYDと拮抗する人気メーカーだったが、米国やイーロン・マスクCEOへの反発、EV全体に価格が下がり外国車へのあこがれがなくなったこと、事故の多発などによって徐々に人気を失った。購入者は品質もデザインも良くなった国産車になびいていった。
<中国車の輸出状況>
国内販売が伸びないならば、自動車企業は海外に目を向けるしかない。CAAMによれば、2025年の自動車の新車輸出台数は前年比21.1%増の709万8000台で、過去最高になった。しかも、日本を抜いて世界最大の輸出国となっている。内訳は、乗用車が前年比21.9%増の603万8000台、商用車が同17.2%増の106万台だった。とりわけ、EVやプラグインハイブリッド(PHEV)などのNEVの輸出が261万5000台。前年24年のこの種の輸出台数は128万4000台だったから、一年で2倍以上に増えた勘定だ。一方、ガソリン、ディーゼルを使う従来型の燃料車(ICE)は448万3000台と、前年比で2%減少した。中国にはもう燃料車はなく、すでに環境対応のNEV大国で、世界をリードしているとのイメージが広く行き渡っているようだ。
中国海関の統計では、2025年のEV輸出先を見ると、トップがベルギーで51億1270万米ドル。2位が英国で35億7555万ドル、3位がオーストラリアで22億9318万ドル。次いで韓国、インドネシア、タイ、ドイツ、マレーシア、メキシコ、UAEの順。EU諸国と東南アジア、オセアニア諸国が主な輸出先になっていることが分かる。従来、最大の輸出先はロシアであったが、ウクライナ戦争の影響か、支払い外貨の不足の問題なのかは不明だが、25年の同国向け輸出は半減した。代わりにメキシコ向けが大幅に伸びた。これは、隣国米国への流入を狙った動きと見られる。中国企業は完成品の輸出のほか、タイ、メキシコ、ブラジル、ウズベキスタンなど海外の地域拠点に現地工場も造っている。
中国車の輸出先として顕著にシェアを上げてきたのがEU諸国だ。EUは地球温暖化対策として早くから環境対応のEVへの関心を強めていたため、中国EVを受け入れやすかった。欧州における中国製のシェアは、2023年初頭では2%超程度でしかなかったが、24年末には6%を超えた。その後もうなぎ上りで、25年後半には8%を超え、10%に迫った。EV比率が高いノルウェーで14%、イタリア、スペインでは9%に達しているという。もともとドイツの「フォルクスワーゲン」などEU企業が中国に工場を造り、関係を強めていたため、こうしたメーカーの車が“祖国”に戻ってきた。だが、近年は中国企業自体がEUに進出しており、中国ブランドも増えている。
中国から遠くないオーストラリアでも、中国車が席巻している。同国自動車工業協会のデータによれば、これまで日本からの輸入が一番多かったが、今年6月、中国車が4万6600台入り、初めて日本車を抜いた。これによってオーストラリア自動車市場は中国車のシェアは35・5%を占め、ナンバーワンとなった。その他の輸入車シェアを見ると、日本製造の車が20.7%、タイ産車が17.8%、韓国産車が11.3%。オーストラリアに入る中国車でよく売れているブランドはBYDで、同社だけで豊田自動車の数量にほぼ匹敵しているという。BYD以外では、小鵬、長城、奇瑞、広汽集団など10を超す中国企業が同国に進出している。中国メーカーにとっては近場の大きなマーケットになっているようだ。
<業界に不安な兆候も>
順風満帆であった中国自動車業界だが、今年に入って不安な兆候も見られる。ジェトロが伝えた6月10日発表のCAAMデータによれば、2026年1-5月の自動車累計販売台数は前年同期比4.2%減の1220万7000台だった。ただ、NEVは同3.5%増の580万2000台で、全体の47.5%を占めた。5月単月で見ると、生産台数は同1.2%減の261万6000台、販売台数は同2.1%減の262万9000台。販売台数の内訳は、乗用車が4.2%減の225万3000台、商用車が12.5%増の37万6000台という。商用車が増えたことは経済活動の活発化を示す好サインなのであろうが、一方で、主力の乗用車が減少傾向を示したのは、デフレによって個人消費の抑制が進んでいることを裏付ける。
2026年になって自動車販売はかなり減少傾向にあるという別のデータもある。「中国汽車流通協会」が発表した「全国乗用車市場分析報告」によれば、2026年1-5月の乗用車累計販売台数は前年同期比19.5%減の709万9000台。5月の単月で見ると、151万台で同22.1%減であったという。同協会は「5月は燃料車の販売が39%ダウン。NEVは7%減でとどまったのは、中東情勢の悪化で原油価格が上昇したことが影響した」と分析している。であるならば、イランをめぐる中東の戦乱は、NEVが主力の中国自動車工業界にはむしろ“好ましい”状況を作り出しているのかも知れないが、販売総数が落ちているとしたら、そうとも言い切れない。
中国汽車流通協会(CADA)は毎月、自動車ディーラーの在庫状況を示す「在庫警戒指数」を発表している。それによれば、2025年12月は前年同月比7.5%増の57.7%、今年に入って1月は59.4%、2月は56.2%、3月は57.5%。4月は62.1%となり、在庫圧力が強まっている。平均価格が下がっている一方で、販売台数も減っているため、各メーカーの利益率は上がらない。2025年、一定規模以上の工業企業の利益率が5.3%であるのに対し、自動車メーカーは4.1%と低かった。26年第1四半期も、全体工業企業の5.4%に対し自動車メーカーは3.4%と一段と低くなった。利益率が下がれば、ますます中小規模企業は生き残れず、大企業中心になってしまうだろう。
米国のジェイミソン・グリア通商代表は4月9日、「中国の自動車のハード、ソフトの規制について変更するつもりはない。それで中国車の米国市場参入を有効に阻止する考えだ」と語った。ハード、ソフトの規制はもともとバイデン前大統領が退任前の2025年1月、「国家の安全」を理由に決めた措置であり、これをトランプ政権も踏襲すると宣言したものだ。米国政府の認識では、中国のEVは「スパイ機器」であり、EVの走行で大規模に米国内の様子が探られているとの見方をしている。バーニー・モレノ上院議員は大手メディア「フォックス」の取材に対し、「中国車には大量の撮影機器が取り付けられており、この動画は中国党中央に送られている。まさに中国車はトロイの木馬である」と語っている。この認識は、EU内にも浸透しているとも言われる。
中国最大の自動車バッテリー企業「寧徳新能源科技(CATL)」はドイツなどEU内に現地工場を持つが、2026年6月、そのハンガリーの工場が異常な廃液を流したとして問題となった。5月5日深夜、デブレツェン工場から緑色した異常な廃液が下水道に流されたため、州政府が特別調査を実施し、損害賠償を求めて訴訟を起こしたという。また、国際NGO「チャイナ・レーバー・ウォッチ」によると、BYDのハンガリー工場が、中国から派遣されてきたエンジニアや建設労働者に対し週7日、一日11時間の勤務を長期間強いていることが分かり、EU本部から「労働法違反であり、欧州の労働市場に影響を与える」と叱責された。自動車そのものに関わることではないが、中国EV最大手企業の瑕疵であるだけに現地で問題視された。海外で商品を売る場合、企業イメージが大事であることは論を待たない。
CAAMによれば、2026年1-5月期の自動車生産台数、販売台数ともに前年同期と比べて減少している。前年までの右肩上がりのトレンドからするとちょっと不安が持たれる。一方、ジェトロによれば、輸出の方は26年5月に93万台で、4月に続いて90万台を超えた。国内的には需要減となっても、海外では欧州、アジア・オセアニアを中心に相変わらず好調な売れ行きを示しているようだ。だが、安心はしていられない。米国で見られるように、政治的要因で中国製への忌避感が出て来ると、輸出に影響が出ることが必至であるからだ。(了)




