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中国映画『戦狼Ⅱ』『紅海行動』と一帯一路構想(その1) 戸張東夫

中国映画『戦狼Ⅱ』『紅海行動』と一帯一路構想(その1) 戸張東夫

<中国映画『戦狼Ⅱ』『紅海行動』と一帯一路構想>

中国にこれまでになく面白いアクション映画が登場したと中国映画ファンの間で話題になっている。武術家出身の中国の呉金監督が映画の中でもヒーローとして大活躍する『戦狼Ⅱ(戦狼 ウルフ・オブ・ウォー)』(2017年)と暴力映画のベテラン香港の林超賢(ダンテ・ラム)監督の『紅海行動(オペレーション:レッド・シー)』(2018年)の二作品である。



2017年と2018年東京で開催された中国映画週間で筆者も観ることができたが、いずれも中国を遠く離れたインド洋の彼方ソマリア沖のアデン湾や中東アフリカ辺りで中国海軍のヒーローや精鋭部隊が活躍するスケールの大きな作品である。概してアクション映画が不得手な中国がここまでやるかと思うようなシーンもあって、中国映画ファンにはぜひ観てもらいたい作品である。

中国映画は、中国の価値観が日本も含む欧米諸国と異なることや、国内の検閲、中国共産党と政府のその時々の方針などに影響されるなど難しい問題を抱えてはいるもののここまでアクション映画に徹することができ、またエンターテインメントとしてもこれだけ面白い映画を作れるのなら、ハリウッド映画に勝るとも劣らないレベルといってよかろう。
 

<中国でも面白いアクション映画が作れるのだ>

これら二作品はいずれも政情不安のアフリカを舞台に、居住国の内乱に巻き込まれたり、ゲリラに襲われたりした現地の中国人住民を救出するという内容。もちろんそれぞれ独立した別の作品であるが、テーマもストーリーの全体の構成もそっくり同じといってもいいくらいだ。

『戦狼Ⅱ』は武術の心得のある呉金監督が自ら出演して、主人公である中国軍精鋭による特殊部隊戦狼中隊のはみ出し隊員冷鋒(ロンフォン)としてスクリーン狭しと暴れ回る。映画の冒頭冷鋒の乗り組んでいた貨物船が海賊に襲われるや、たった一人敢然と海に跳びこみ水中で海賊どもと格闘したり、自動車に乗ったまま“敵”の占拠する病院に突っ込んだり、マーク・タイソンのような大男の白人傭兵と素手でわたりあったり、戦車戦を展開するなど香港のアクションスター成龍(ジャッキー・チェン)や甄子丹(ドニー・イエン)も顔負けのアクションスター振りである。さしづめハリウッド映画『ランボー』シリーズの中国版といったところだ。呉金監督自身もシルベスター・スタローンあたりを意識していたのではあるまいか。

とにかくアクションに次ぐアクションの連続だ。ここまでアクションを盛り込み、エンターテインメントに徹した作品はこれまでの中国映画にはきわめて珍しい。1949年以後中国の映画人は長い間エンターテインメント映画を作ることを許されなかった。このため改革開放時代に入り映画会社も独立採算制を導入、面白くてカネの儲かる映画を作らねばならなくなったのになかなかファンの求める娯楽作品を作ることが出来ず香港の映画人に頼らざるを得なかった。この『戦狼Ⅱ』はそんな中国でもその気になればこんなに面白いアクション映画、エンターテインメント映画を作ることができるのだと内外のファンに胸を張って宣言することができる初めての作品といっていいであろう。中国国内における観客動員数が抜群だったというのもうなずける。


<庶民的なスーパーヒーローが誕生>

監督、主演の呉金もよかった。スーパーヒーローという設定ながら、どこにでもいそうな普通の人といった風貌で人懐っこいところもある。婚約者を失った(?)という心の傷に耐えられず酒をあおってバカ騒ぎするもろさや祖国を遠く離れたアフリカでしたたかに生きるたくましさ、現地の人たちとわけ隔てなく生活を楽しむ心の広さ。ファンはこの新たなヒーローに親しみを感じたに違いない。このような人間ドラマが盛り込まれているところが中国的といえば中国的といえるであろう。

さていささか横道にそれるが、『戦狼Ⅱ』の冒頭、反乱軍の攻撃に遭遇して冷鋒に助けられる大柄な中国人男性が登場する。はてどこかで見たような見覚えのある顔だなと思ったら中国の笑いの話芸「相声」の芸人于謙(ユウチエン)だった。いま中国でいちばん人気のある「相声」芸人郭徳綱(クオトォカン)とコンビを組んでいるあの于謙である。郭徳綱とともに2017、18両年来日、東京公演を行なったからご存知の方もおられよう。だからなんだ、といわれると返答に困るのだが、そんな芸人の顔を見つけて何か大発見をしたような気になっている。

写真1:「『戦狼Ⅱ』の中国の海報(ポスター)。」



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