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第494回 30年かけて元に戻ったタイ政治  直井謙二

第494回 30年かけて元に戻ったタイ政治  直井謙二

第494回 30年かけて元に戻ったタイ政治

日本は10連休の黄金週間だった最中の5月4日から5日までの3日間、タイの首都バンコクではワチュラロンコン新国王の戴冠式が行われた。(写真)その一方で総選挙を受け、軍出身のプラユット氏が引き続き首相に就任することが決まった。絢爛豪華な王朝絵巻はタイが立憲君主制であり「国王を元首とする民主制度」であることを再認識させた。

タイの政局は複雑で国王の他に国軍や官界それに財界の力のバランスの上で動く。庶民の不満が高まると軍部がタイ式クーデターで政権を倒すが、国王の肖像画を掲げて忠誠を誓い体制は維持される。ベトナム戦争直後はタイも共産化の危機を迎えていて国王と軍の力が強かった。

1980年代半ば、プレム元首相は軍上がりながら巧みにナンバー2を抑え込み政権を維持した。80年代後半になるとカンボジア紛争終結や東西冷戦構造の崩壊で軍より経済に重きが置かれる時代になった。

1987年「ビジットタイランド」と銘打った観光誘致が始まり、翌年首相に就任したチャートチャーイ元首相は「インドシナを戦場から市場へ」と発言、近隣諸国との貿易を経済の柱に据えた。そして影響力の衰退に危機感を持つ国軍がクーデターを起こし、チャートチャーイ政権はわずか3年で崩壊することになる。

1992年、軍上がりのスチンダ元首相とチャムロン元都知事が指導する民主化勢力が激突し死傷者が出た。その時はプミポン前国王による調停で騒乱は収まった。その後軍の影響力は低下し総選挙に勝利した政党が政権を握る民主制度が機能していった。

ところが1997年タイを襲ったアジア通貨危機は庶民の生活を直撃した。クーデターの可能性を軍の幹部に質問した。「今は民主主義の時代、クーデターなど考えられない」という答えにタイは完全に民主化されたのだと思った。

その後21世紀に入り、タクシン政権が誕生した。金権政治と自らの不正で批判を浴びたが、ばら撒きで貧困層の支持を取り付け、独裁性を強めた。王室への配慮も欠け前国王から間接的に批判を浴び、民主化の時代で考えられないはずのクーデターが起き、政権を失い国外追放された。数年前のタクシンを支持する赤シャツ対黄シャツの対立は変化を望む貧困層と既得の権益を守ろうとする富裕層の戦いともいえる。

混乱は軍の力で収拾された。混乱に辟易した市民の支持で総選挙は親軍派の政党が勝利した。そして2019年5月26日、タイのプレム元首相が98歳で死去した。30年前のプレム時代に回帰したようだが、前国王とプレム氏を失ったタイは混迷が続くことになりそうだ。

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