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日中雪解けと中国映画祭と『芳華』(上) 戸張東夫

日中雪解けと中国映画祭と『芳華』(上) 戸張東夫

<日中雪解けと中国映画祭と『芳華』>

日本政府による尖閣諸島(中国名は釣魚島)国有化をきっかけに悪化した日中関係は尖閣諸島だけの問題から日中両国の全面対立に発展して5年以上続いている。このため両国間の様々な交流が阻害される結果になっている。ところがいま両国はようやく雪解けの方向に進み始めた。今年(2018年)は日中平和友好条約締結40周年に当たるため早速この3月文化庁など主催で記念の中国映画祭が開かれたが、映画の交流も今後活発になろう。



この映画祭で馮小剛監督の新作『芳華』を観たが、映画でなければ伝わりにくい中国と中国の人たちのいまを知ることができて面白かった。ここ数年日本で公開される中国映画が少なかったが、これからは数多くの作品を観ることができるだろう。最近『マンハント』と『空海-KU-KAI―美しき王妃の謎』の二本の日中合作映画がわが国で公開されたが、日中映画界の交流の新たな弾みになるかもしれない。

*『マンハント』の中国のタイトルは『追捕』。香港の監督ジョン・ウー(呉宇森)監督2017年の作品。福山雅治主演。佐藤純彌監督が1976年に高倉健主演で作った『君よ憤怒の河を渉れ』のリメイク。一方『空海-KU-KAI―美しき王妃の謎』の中国名は『妖猫傳』。陳凱歌監督2017年製作。松坂慶子、阿部寛、染谷将太らが出演。染谷将太が空海を演じたが、テレビアニメの一休さんというイメージだった。

<雪解けへ向かう日中関係>

日中両首脳、安倍首相と習近平国家主席が互いにそっぽを向き目もあわせないで、ぎこちなく握手している姿がテレビのニュースで流れたことがある。安倍首相が2014年11月APEC(アジア太平洋経済協力会議)首脳会議に出席するため訪中した機会を利用して習主席と初の首脳会談を行なった時のことである。こういう不愉快な演出を事前に誰かが準備していたのか、それとも両首脳のアドリブだったのか、といったつまらぬことを考えながら観ていたのを記憶している。ところが気をつけてみていると、最近は両首脳が正面から見詰め合って笑顔で握手するシーンが多くなった。昨年ごろからだったと思う。両国関係に微妙な変化が生じているのであろう。

昨年(2017)7月ドイツのハンブルクで両首脳が会ったときには、習主席が「政治的な課題は一つ一つ解決していかなければならないが、両国の経済関係発展の妨げになってはならない」といったのに対して、安倍首相が中国の巨大経済圏構想「一帯一路」に協力する意向をつたえたという。また昨年(2017)9月安倍首相が中国の建国記念日である國慶節を祝う中国大使館主催のパーティーに出席すれば、一方の習主席は南京の「南京虐殺記念館」で催された中国政府の追悼行事に出席はしたものの演説はしなかった(2017年12月14日の『読売新聞』朝刊は「日本政府は『中国政府が日本批判を抑制した』(外務省幹部)とみて」いると報じた)。すると安倍首相はこの(2018年)1月の衆院本会議における施政方針演説で日中関係に触れ、「本年は日中平和友好条約締結40周年記念という大きな節目に当たります。経済、観光、文化、スポーツ、あらゆるレベルで日中両国民の交流を飛躍的に強化します。」、「(日中首脳の相互訪問実現を念頭において)ハイレベルな往来を深めることで、日中関係を新たな段階へと押し上げてまいります」と強調する。こんな具合である。

わが国政府が尖閣諸島(中国名は釣魚島)を国有化した2012年を機に悪化した日中関係を日中国交正常化45周年の2017年、日中平和友好条約締結40周年に当たる2018年あたりをめどに何とか関係改善にもっていきたいという両国政府の努力がこうして一つの成果をあげようとしている。日本と中国の関係改善は日中両国のみならず、南太平洋からインド洋にいたるアジア諸国の安定や経済建設に大きな影響を及ぼすだけに内外の関心を集めているところである。

<尖閣諸島問題のとばっちりで映画配給会社が倒産>

五年の間続いた不愉快な日中関係はこうしていまようやく雪解けの方向に進み始めた。何はともあれお隣の中国との関係を正常化することができたのはまことに喜ばしい。反対するものなど誰もいないであろう。だが両国の関係悪化の最大の原因であった尖閣諸島に関する両国の考え方の違いや対立は全く解消されなかった。中国は民間の漁船や政府当局の船舶などを動員して周辺海域に送りこんで圧力をかけてきたものの、わが国の離島防衛強化政策を引き出すという皮肉な結果に終わった。それでも中国が矛を納めて両国関係改善に方向転換することができるのであれば、当初からことを荒立てる必要はなかったのではなかろうか。そんな疑問もわいてくる。中国にはまた別の思惑や目的があったのであろう。が、いまはあえて触れないことにする。

ここで一つ指摘しておきたい。中国と他の国や他国政府の間で意見の違いや矛盾が発生すると、両国間の外交交流関係を損なわないように意見の違いや矛盾を両国関係全体と切り離して部分的な問題として冷静に、時間をかけて処理するということが中国には不得手であることだ。だから日中間で何か問題が起こると、部分的な問題を全体に拡大して中国と日本の全面対立にしてしまい、国を挙げて反日運動を展開するということがしばしば起こる。今回の尖閣諸島をめぐる日中関係悪化もその好例である。

韓国がミサイル防衛システム最終段階高高度地域防衛(THAAD)の在韓米軍への配備を決めたところ、これに反対する中国は、報復措置のひとつとして中国で人気のある韓国ドラマの放映制限や韓国芸能人の出演規制、韓国航空会社による旧正月期間中の臨時便運行申請を不許可にするなど両国民の日常生活を妨げるような政策を採ったのである。(『読売新聞』朝刊2017年1月16日、同年12月23日)

尖閣諸島を巡る日中関係悪化の影響で2013年2月破産に追い込まれたわが国の映画配給会社があるのをご存知だろうか。いまや国際的な映画監督である香港の監督王家衛(ウォン・カーワイ)の作品をわが国に紹介したことで知られる「プレノン・アッシュ」(東京・港区)である。『一九〇五』というタイトルの日中合作のアクション映画を企画、製作したところ、出演が決まっていた香港の人気男優梁朝偉(トニー・レオン)が尖閣諸島問題のため出演できなくなったことから撮影が頓挫してしまい、このため膨大な負債を抱えてしまったのである。とんだとばっちりである。運が悪かったというほかない。尖閣諸島をめぐる日中関係の悪化が、政治とも外交とも全く無関係なテレビドラマや映画にも暗い影を落としていたのである。

*「負債総額はおよそ6億4300万円。『一九〇五』は1950年の横浜を舞台にしたアクション映画。黒澤清監督の下、香港出身のトニー・レオン、松田翔太、元AKB48の前田敦子の3人が主演し、今秋(2013年秋)の全国公開を予定していた。しかし、尖閣問題の影響を受けてトニー・レオンが事実上出演を見送り、撮影が滞っていた」と『読売新聞』朝刊2013年2月26日報じた。

 

写真1:戦場で傷つく文工団の女性も。『芳華』の一場面より。
(c)Huayi Brothers Pictures Limited



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