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第565回 ミャンマー政変1年、旧知の大使へのエール 伊藤努

第565回 ミャンマー政変1年、旧知の大使へのエール 伊藤努

第565回 ミャンマー政変1年、旧知の大使へのエール

昨年2月、ミャンマー(ビルマ)の国軍がよもやのクーデターを決行し、前年11月の総選挙での「不正」を口実に、文民政権を率いてきたアウン・サン・スー・チー氏ら与党・国民民主連盟(NLD)の幹部らを一斉に拘束するなどして実権を握ってから早くも1年が過ぎた。どう見ても正当な理由が全くないクーデターに強く反発した多くの市民は最大都市ヤンゴンなど国内各地で抗議のための街頭行動に打って出たが、国軍は治安部隊を投入して容赦ない弾圧を続けており、犠牲者は子供を含め1500人に上る。また、数千人が不当に拘束されていると伝えられているほか、治安要員による執拗な迫害や生命の危険を恐れた多くの民主派活動家、ジャーナリストたちも隣国のタイなどへの脱出を余儀なくされている。

この間、仲裁に乗り出した東南アジア諸国連合(ASEAN)もミャンマーへの特使派遣が実現しないまま、実効性のある事態収拾策を打ち出せないほか、国連安保理では中国、ロシアの反対で対ミャンマー非難決議案すら採択に持ち込めないなど、国軍を交渉の場に引き出すことができない国際政治の現実に無力感が漂う。

国軍のミン・アウン・フライン最高司令官はクーデターで実権を掌握してから1年となる2月1日、国営テレビを通した演説で、2020年の総選挙で大規模な不正が行われたため、軍が権力を掌握したとの従来からの立場を改めて主張したが、これがクーデターを正当化するための口実あるいは作り話にすぎないことは、虚心に見れば、誰の目にも明らかだ。「裸の王様」の童話を書いたアンデルセンの寓話が21世紀の現代世界で公然とまかり通っていることに驚きを禁じ得ない。要は、民主化指導者でもあったスー・チー氏が引き続き政権を担当すれば、国軍に有利な規定がある現行憲法が改正され、国内に張り巡らされた莫大な既得権益を失うことを恐れた国軍が武力によって軍事政権の復活を画策した筋書に基づく暴挙にほかならない。

敬けんな仏教徒が多いミャンマーの心ある国民がこうしたクーデターの背景や国軍の政治的思惑を見抜き、そのことを広く共有するだけに、今なお、「不服従運動」や「沈黙のストライキ」などさまざまな方法での抗議行動が断続的に起きているのだろう。クーデター後、暴力支配を既成事実化する国軍の統治は到底容認できないが、ASEANや国連などによるスー・チー氏の即時解放要求や対話を通じた政治的解決の取り組みも袋小路に入り込み、ミャンマー情勢の先行きは残念ながら極めて厳しいと言わざるを得ない。

クーデターという暴挙や民主派への過酷な弾圧を厳しく非難する欧米諸国は、軍事政権に厳しい制裁を科し、妥協を引き出そうとするが、国際社会の制裁を長年にわたり経験してきた国軍には、効果のある圧力とはなかなかならない。そうした中で、国軍、民主派の双方に持つパイプを水面下で活用し、欧米の強硬政策とは一線を画した仲介役を果たそうとしているのがミャンマーとの関係が深いわが国である。

かつての筆者の東南アジア駐在時を通じて、取材で大変お世話になった外務省随一のミャンマー専門家の丸山市郎氏が現在、駐ミャンマー大使として現地で日夜懸命の活動を展開しておられる。若くしてミャンマーという国に魅せられ、アジア有数のこの親日国に長く関与してきた丸山大使にとっても、クーデター後のこの1年余りは長い外交官人生で最大の試練の時期と捉え、国際的な難題と向き合っているに違いない。日本の対ミャンマー独自外交が何とか奏功することを遠くから念じている。

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