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第567回 ウクライナ避難民の受け入れで思うこと 伊藤努

第567回 ウクライナ避難民の受け入れで思うこと 伊藤努

第567回 ウクライナ避難民の受け入れで思うこと

ロシアの独裁的指導者、プーチン大統領が命じた「特別軍事作戦」と称するウクライナ軍事侵攻はあっという間の生死の境をさまよいかねない数百万規模の避難民を生み出すかつてない人道危機を招いた。「狂気の皇帝」とも揶揄されるロシアの冷血な権力者の暴挙は、ナチス・ドイツ首領のヒトラーとともに歴史にその悪行を残すことになるのは間違いない。

全く理不尽で横暴な隣国の侵略の被害者として、着の身着のままで恐ろしい戦火を逃れ、ポーランドなど隣国にたどり着いた子ども連れの女性や高齢者らの疲労困憊した姿には心が痛む。ただ、不幸中の幸いという表現は適切ではないものの、何とかウクライナ国外に脱出した避難民の人々が当座の避難先で温かなもてなしを受けているケースが多いことにわずかながら安堵する。

今回のウクライナ情勢の暗転を受けた同国市民の国外脱出先は、歴史的、文化的な関係も深い隣国のポーランドが圧倒的に多いが、小国のモルドバ、スロバキア、ハンガリー、ドイツなどかなり多くの近隣諸国が受け入れ先となっている。戦火を逃れたウクライナ避難民の多くも、家族や親族、知人などいざというときに頼りになる人物がいる国であれば、異郷の地での突然の避難生活にも安心感を持つことができるかもしれない。

ウクライナの成人男性は徴兵の義務があるため、女性や子ども、高齢者が多いウクライナ避難民が国外脱出先の近隣諸国で温かな歓迎を受けている背景には、軍事大国ロシアによる公然たる隣国侵略に対する強い怒り、憤りに伴うウクライナ人への同情や寄り添いの気持ちが沸き起こったのに加え、同じ欧州人という民族的、人種的な絆があることも大きな理由にあるのではないか。

今回の大規模なウクライナ避難民への欧州各国の人道的な対応で思い起こすのは、ちょうど1年ほど前に持ち上がったベラルーシ経由でポーランドやバルト3国の一つであるリトアニアの国境周辺に集まった中東などの大勢の移民・難民希望者らに対する厳しい取り締まりとの際立った違いだ。当時、今回の一件でも渦中にあるポーランド当局が経済大国のドイツを最終目的地とするこれら移民・難民の不法越境(領内通過)を認めようとせず、治安部隊などを投入して国境での追い返し作戦を実施したのは記憶に新しい。

もちろん、ベラルーシの独裁者として悪名高いルカシェンコ大統領の指図による同国経由での難民の欧州連合(EU)域内への大量送り込みの画策と、今回のロシアの軍事侵攻によるウクライナ避難民の国外脱出とは国際政治の背景、事情は全く異にするとはいえ、自らの出身国で不当に迫害された紛争地域の人々が安全な異国の地に逃れようとする動機や心情の一点においては前者と後者の事情にさほどの差はないはずだ。

翻って、国内での民族紛争などが多いアジアでも、半世紀近く前のベトナム戦争終結後の共産体制移行を嫌う旧南ベトナムの華僑らのインドシナ難民の大量流出や戦乱が長く続くアフガニスタンからの難民の大量発生、ミャンマー(ビルマ)における少数派イスラム教徒ロヒンギャに対する弾圧に伴う事実上の国外追放など、深刻な難民問題は枚挙にいとまがない。

しかし、戦乱や騒乱が多い中東地域を含め、アジアなど非欧米地域では、国外に逃れざるを得ない境遇にある難民や避難民は総じて近隣諸国で厄介者扱いをされ、長年にわたり劣悪な生活環境のキャンプ生活を強いられているケースが圧倒的に多い。いろいろと考えさせられる世界各地の難民事情だが、「人間の安全保障」をいち早く訴え、主要な外交政策の柱の一つに据えるわが国の難民受け入れの貢献度の低さが大いに気にかかる。

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