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第12回 室内に「吊り橋」のある開発:芳草地・Parkview Green 東福大輔

第12回 室内に「吊り橋」のある開発:芳草地・Parkview Green 東福大輔

第12回 室内に「吊り橋」のある開発:芳草地・Parkview Green

前回紹介した「世貿天階」から少し北へ歩くと、「芳草地(ファンツァオディー、ParkviewGreen)」という物件がある。半透明の膜を載せたガラスの箱が、敷地の真ん中にドカンと建っている。建築設計や施工に携わる人であれば、建物の外観を見るだけで相当の資金が投じられたビルであることは分かるだろうが、彼らは内部に入ってもっと驚かされることになるだろう。外から見ると単一の「ガラスの箱」だが、その内部にはさらに4つの建物が「入れ子」状に建っており、さらにその間には長さ200メートルはあろうかという吊橋がかかっているのだ。

吊橋の下に掘りこまれたショッピング・モールに入居しているテナントも、中国に初めて進出する高級テナントが多く、他のモールにあるような、よく見知った「高級ブランド」はほとんどない。リーシング(不動産の営業活動)が、単一の人物の趣味を反映するかたちで行われているのがうかがえる。また、上層階にあるホテルも贅を尽くしている。ほぼ全ての部屋がテラスに面しており、それぞれのテラスにはプールがあるのだ。

この建物を開発したのは香港系の「橋福集団」。設計したのは香港系の「Integrated Design Associates (IDA)」という設計事務所であり、実際の作品クレジットもそうなっている。だが、全体的な設計内容は、橋福集団のボス、黄建華(George Wong)氏がリーダーシップをとって進めていることは間違いない。筆者も、何度かこの黄氏を訪ねたが、いつも図面をひっくり返しては眺め、赤を入れ続けていた。彼が建築に傾ける情熱は、設計者以上かもしれない。担当者の苦労は推して知るべしだが、努力の甲斐あってか、この建物はIDAの代表作となっている。

黄氏の方針を反映して、この建物は環境対応にも熱心で、アメリカの団体が主導するLEED(Leadership in Energy & Environmental Design)という環境性能評価の最高位「プラチナム認証」を受けている。平たく言えば、この建物は普通の同規模の建物と比べ、30%以下のエネルギーしか消費していないということだ。外側と内側の2つの建物の間に人工的に気流を作り出して、それを空調に利用したり、照明には環境負荷の少ないLED照明を採用したりと、ほぼ全ての環境対応を行っているとみてよいだろう。そのための初期投資は、普通の建物の約7倍といわれている。営利企業であるディベロッパーにとってみれば、トップの強力な意思なくしては、なかなかできない投資判断であることは言うまでもない。

また、黄氏は中国現代美術のコレクターとしても有名な人物で、建物内のあちこちには絵画・彫刻などの彼のコレクションが置かれている。いずれもパブリック・アート用に複製されたレプリカではなく、ホンモノであり、コミッション・ワーク(あらかじめ設置場所などが決まっており、美術家に制作を依頼した作品)も多い。この建物が完成した2010年頃、中国アートのマーケットは高騰していた。こちらへの投資も、かなりの額だろう。

日本のディベロッパーは沢山あるが、社長の「顔」が見えるところは少ない。設計の方針も詳細にマニュアル化されており、そこからはみ出た課題も合議を経て決定されてゆく。そのようなビジネス・スタイルが日本的品質を裏付けていることは事実だが、一個人が巨額の金を握り、その趣味を反映したトガった建築を生み出し続けている中国マーケットはやはり面白い。


写真1枚目:外観。入れ子上に建つ内部の建物が透けて見える。
写真2枚目:内観。巨大な吊り橋の下に広がるショッピング・モール。
map:<芳草地>北京市朝陽区。地下鉄6号線「東大橋」駅から徒歩5分


 

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